日常を少し非現実に – オープンカーという選択

多機能化し、ますます家電のように変わっていく自動車。それは一見安全で便利なように見えるけど、クルマ好きが求める理想からはどんどん離れていっているように思える。クルマはいつだって私たちにドキドキを与えてくれる存在でいてほしい。オープンカーは生活に豊かさを求める人にうってつけのクルマだ。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : Net car show

オープンスポーツの金字塔、マツダ・ロードスター

オープンカーと聞いて真っ先に思い浮かべるクルマはマツダ・ロードスターを置いて他にない。初代は1989年に登場。発売初年に国内で9,307台を販売、翌年は世界で9万3,626台を販売し、スポーツカーとしては異例の大ヒットを記録する。ロードスターはかつて存在したロータス・エランを参考に作られた小型・軽量のオープンスポーツカーだ。軽量なボディによく回る元気なエンジン、ドライバーの意志がそのまま伝わる操縦性といったシンプルかつ楽しさに溢れたクルマ作りは大衆から喝采を浴びた。
自動車の歴史を振り返ると時代ごとにいくつか転換期となったモデルが存在するが、ロードスターもその中に間違いなく含まれる。このクルマが大ヒットしたことは世界中の自動車メーカーに強い影響を与えた。後に登場するポルシェ・ボクスターやBMW Z3、メルセデス・ベンツSLK、フィアット・バルケッタといった名車たちは、すべてロードスターの成功を受けて作られたクルマなのだ。
古典的なオープンスポーツを参考にしながら、随所に最新鋭のテクニックと日本らしさを盛り込んだ点もロードスターのユニークなところだ。後輪駆動車として確かな走りを追求するために4輪ダブルウィシュボーンサスペンションを採用。また、ミッションケースとデフケースが結合されたPPF(パワープラントフレーム)により、アクセルレスポンスやシフトフィールにダイレクト感を持たせ、更にエンジンをフロントミッドシップに配置することで、前後重量配分はほぼ理想的な50:50を実現した。軽くバランスも良く、足回りもしっかりすることで、マツダが現在でも謳う「人馬一体感」をこの頃から実現しているのは本当に凄い。
初代のデザインは簡素さが際立っているが、実はかなり凝ったディテールが備わっていることをご存知だろうか。フロントマスクは日本の伝統芸能である能面を意識し、リアのコンビネーションライトは江戸時代の両替商が使った分銅をイメージ。随所に和のテイストが散りばめられているのだ。エランを参考にしつつ日本らしさを出したことは実にマツダらしい。後にリアコンビネーションライトは優れたデザインと機能性を高く評価され、ニューヨーク近代美術館に永久収蔵されている。
現在生産されているロードスターは4代目で、運転のしやすさや利便性といったテクノロジー面では過去のモデルとは比べられないほど進化している。しかし、ことロードスターに限って言えばどの時代のモデルを選んでも運転する楽しさは充分味わえるだろう。最新モデルで洗練されたデザインや乗り味を堪能するのも良いし、旧モデルのシンプルな操縦性や手のひらサイズの楽しさを堪能するのも良い。どれを選んでも痛快な「人馬一体感」を味わえるはずだ。


現行モデルの美しいバックショット。肉感的でありながらコンパクトなバランスは、マツダの手腕を再び世界に知らしめた。

マニュアルミッションも選択できるのが嬉しい!小型軽量のオープンスポーツカーはやはりマニュアルが一番だ。

鋭さと高級感に浸るならポルシェ・ボクスター

スポーツカーの世界で常に他社を牽引してきたポルシェが作るオープンカー、ボクスター。「餅は餅屋」の言葉通り、純粋なスポーツカーとして見た場合はボクスターに敵うオープンカーは存在しない。911で培ってきた経験とテクノロジーを継承しているという点でも、ボクスターがいかに特別なモデルかを物語っている。
911シリーズを頂点に構えるポルシェのラインナップの中で、エントリーモデルなのがボクスター。比較的買いやすい価格帯であることから、実際に最初のポルシェとしてボクスターを選ぶオーナーは多い。ところが、そこから911という一般的な流れに行かず、ボクスターで「上がり」にしているオーナーも多いという。ボクスターが本格的なミッドシップスポーツカーであり、非常に純度の高いスポーツマインドを備えていることがその理由だ。
「911こそがポルシェ」という考え方に反対するわけではないが、RR(リアエンジン・リア駆動)という特殊なレイアウトを貫く911よりも、MR(ミッドシップエンジン・リア駆動)のボクスターやケイマンの方が理にかなった構造であることはポルシェ自身も認めるところ。加えて、パワフルかつ鋭く官能的に反応するエンジンが搭載されているのだから、悪いクルマであるわけがない。


流れるようなボディライン。英国車とも日本車とも違う高級感とセクシーさを備えたデザインが男女問わず人気だ。911のアイデンティティを継承しながらボクスターならではの個性を確立しておえり、もはやエントリーモデルとして見るクルマ好きはあまりいないだろう。

風を切りクルマと一体となって走り抜ける。安心して楽しさを享受できるのもポルシェならではだ。ボクスターは2005年、ドイツの国際的第三者試験認証機関TüVが発行した自動車に関するテストレポートにおいて故障率2.6%と最も故障が少ない車として認められている。

ボクスターを選ぶ人は自分のセンスを大切にする人だと思う。ライフスタイルをこだわりのある豊かなものにしたければ、このクルマは最適な一台だ。日常使いから高速走行まで難なくこなす機械としてのポテンシャルの高さは他の追随を許さないレベルにあり、とても速いクルマなのに絶対的なパフォーマンスを前面に出さない。とてもオシャレで精神的な贅沢さを感じられる。

己の道を突き進むマッスルカーをオープンエアで

最後を飾るのはフォード・マスタング・コンバーチブル。ロードスターとボクスターに比べ非常に大柄でワイルドなマスタングをなぜ選んだのか?理由は、楽しさにかけては上記の2台といい勝負をするからだ。
アメリカン・マッスルカーを代表するベストセラーモデルであるフォード・マスタングは、もっとも有名なアメ車のひとつであり、アメリカのカルチャーを愛する人間にとっては心のふるさとのようなクルマである。いかにもアメリカンなルックスと大排気量のV8エンジンはロックンロールやブルースに通じる何かがある。これだけカッコいいクルマが(少なくとも本国では)安いのも愛され続けている理由だろう。まさにマスタングは国民車なのだ。


ロングノーズ・ショートデッキという昔ながらの黄金比を守る。逆スラント形の顔周りや張り出したマッチョなフェンダーなど、マスタングらしさを随所に感じる。

大型の2連メーターも初代から続く伝統の意匠。エアコンの吹き出し口もそれに合わせてサークル型で、マニアはこういったディテールに狂喜する。現行モデルはインテリアの質感も先代に比べて大きくアップデートされた。

マスタングはゆったりとクルージングしている時がもっとも楽しい。ロードスターやボクスターに乗っていて一番楽しいのは曲がりくねった山道やサーキットかもしれないが、マスタングの場合はちょっと違う。もちろんコーナリング性能が低いわけではなく、パワフルなエンジンは低速で流していても笑ってしまうくらい気持ちいいのだ。このクルマは人の気持ちを大らかにしてくれると思う。そんなに急いでどこに行くの…と周りのクルマに訊きたくなる感じ、と言って伝わるだろうか。
V8エンジンは低速トルクが強く、アイドリングの鼓動からしてビートを感じてしまう。エンジンをスタートするだけでワクワクさせてくれる。と言ってもスーパーカーのような類のどこかヒリヒリした風ではなく、もっと余裕のある感じ。狭いながら後部座席もあるので、ドライバー以外はお酒でも飲みながら小旅行に行くと最高に楽しそうだ。
もしかしたらこの3台の中でもっともアナログな魅力を感じるクルマかもしれない。自動車黄金時代の遺産であり、合理性とエコを徹底的に求められる今の時代でもマイペースな姿勢を崩さないところにグッとくる。純スポーツカーとしては間違いなくロードスターとボクスターの方に軍配が上がるが、マスタングには大人のオモチャのようなファンな一面があるのだ。日本で乗っていてもっとも目立つのもマスタングであり、クルマに興味がない人から「何か凄いね!」と褒められるのもマスタングだったりする。このクルマは例えベースモデルを選んでもスターのような華やかさがある。

日常を少し非現実的に変える魔法があるのがオープンカー

ロードスター、ボクスター、マスタング。3台とも非常に個性的なので、魅力を掘り下げるだけで楽しい。共通しているのは、どのモデルを選んでもオーナーの日常を少し非現実的に変える魔法があるということ。仕事が終わりクタクタで帰宅しても、自宅にオープンカーがあるだけで元気が沸いてくる。近所を少し走るだけでエネルギーが充電できる。晴れた週末に屋根を開いてドライブすれば、この上ない快感に包まれるはずだ。
クルマがどんどん家電化し、退屈な「製品」になっていく時代に逆行するような選択かもしれないが、オーナーのライフスタイルを変えるほどの魔力があるのがオープンカー。やっぱりクルマには楽しさがないといけない。

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