People with style Pt.1 Richard Stark

スタイルのある人 – 【第1回】リチャード・スターク(クロムハーツ)

男も女もスタイルのある人に憧れる。どうしてあの人はいつもあんなに素敵なんだろう…それはきっと揺るぎないスタイルがあるから。連載「スタイルのある人」では、LIVE IN RUGGEDが特に素敵だと思う人にクローズアップし、秘められたスタイルを研究していく。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : CHROME HEARTS

LIVE IN RUGGED流「スタイルのある人」とは?

「あの人はスタイルがある」…こういう言い方はよくされるけれど、そもそも「スタイル」とは何なのだろうか?辞書によると、「様式」「考え方」「行動の仕方」、そして「品位」という言葉も出てくる。ざっくり考えると、「スタイルのある人」とは自分なりの基準で行動し、品位がある人ということになるのかもしれない。しかし、この問いへの答えはきっと人の数だけ違うだろう。なぜなら、人それぞれ「スタイル」の定義が少しづつ異なるから。
LIVE IN RUGGEDでは、生き方や暮らし方に自分なりの基準やこだわりを持ち、品位も備わっている人が「スタイルのある人」と考えた。周囲に流され過ぎずに自分の人生を自分のペースで楽しむ人や、品位を空気のようにまとう人は、男女問わずいつだって素敵で憧れる。
記念すべき第1回目の連載の主人公は、〈CHROME HEARTS(クロムハーツ)〉の創始者であるRichard Stark(リチャード・スターク)だ。〈クロムハーツ〉を生み出す前から自分のスタイルを持ち、〈クロムハーツ〉を生み出してからは他に類のないスタイルを作った人物。きらびやかなハリウッドとリアルなストリートの両方の世界で神格化されるほどのカリスマになったリチャード・スタークのスタイルに迫ろう。
〈Supreme(シュプリーム)〉創始者のJames Jebbia(ジェームズ・ジェビア)などが登場する連載「PEOPLE WITH STYLE(スタイルのある人)」バックナンバーを見る


1990年代のリチャード・スターク。胸元にぶら下がる3トリンケッツペンダントはリチャードがプライベートで愛用しているアイテムとして、ここ日本で商品化された際はプレミア化した。

2000年代のショット。黒いTシャツと黒いレザーパンツという揺るぎないスタイルは、年齢を重ねても変わらない。

本物を知る人から溺愛されるブランド、〈クロムハーツ〉を生み出した男

「スタイルのある人」は誰だろう?と考えた時に、私の頭の中に真っ先に浮かんだ人物がリチャード・スタークだった。高校生の時に〈クロムハーツ〉を知り、ほぼ間をおかず創業者兼デザイナーであるリチャードの写真を雑誌で見た時の強烈な印象は今もよく覚えている。肩まで伸びたチリチリのカーリーヘアとよく日に灼けた肌。神秘的な瞳。スラリとした背丈と長い脚に重厚なレザーパンツが最高に似合っていて、カリスマのオーラが誌面から漂ってくるようだった。
レザーウェアを主軸とするブランドとしてスタートした〈クロムハーツ〉の歴史はユニークでとてつもなく華々しい。ライダースジャケットやレザーパンツに使われる革の質の高さもさることながら、ボタンやジッパーに使われるパーツをスターリングシルバーで制作。それらのシルバー製パーツは中性ゴシック様式を思わせるクロスやダガー、フローラルなどのクラシカルなモチーフが彫金されていて、ジュエリーとしても成立する高いデザイン性があった。やがてリングやブレスレット、ネックレスといったジュエリーをきっかけに爆発的なブームを生む。
1992年にはアメリカのファッション業界で最高の名誉と称されるCFDA(アメリカ・ファッション・デザイナーズ協会)のアクセサリー部門で最優秀賞を受賞。本国アメリカではハリウッドスターやロックスターたちがこぞって身に着け始め、その熱が飛び火する形で90年代の日本のファッションシーンにも強い影響を与える。〈クロムハーツ〉がまだ日本で無名だった時代に取り扱いを始めたお店のひとつが〈COMME des GARÇONS(コム・デ・ギャルソン)〉であったことや、〈CHANEL(シャネル)〉のデザイナーとしてモード界に君臨したKarl Lagerfeld(カール・ラガーフェルド)の「男が身に着けられるジュエリーは〈クロムハーツ〉だけ」という発言からも、〈クロムハーツ〉が「本物の中の本物」を知る人々から愛されてきたことを物語っている。


雑誌用に特別に作った日本の学生服(〈クロムハーツ〉仕様)。横に写るのは妻であり〈クロムハーツ〉の広告写真などを撮影・ディレクションするローリー・リン・スターク。

〈クロムハーツ〉を支えるスタッフとのショット。左に写っているのはニューヨーク本店の名物スタッフであるモコ。余談だが、モコはF1のフェラーリのパドックにたまに顔を出している。全員がレザーパンツを穿いていて、エイジングが最高にカッコいい。

〈クロムハーツ〉を根底から支える「ガレージロック魂」を持つリチャード

〈クロムハーツ〉は今や生活全般をカバーするライフスタイルブランドへと成長。ブランドが大きくなるにつれて創業当時のスピリットが失われたという批判も増えたが、他のラグジュアリーブランドにはない反骨精神の支柱がリチャード・スタークなのだと思う。元々自分たちがバイクに乗る時のレザーウェアを制作するためにビジネスをスタートしたことが原点で、創業当時は前述のようにバイカーがバイクに乗る時のための洋服をメインに制作していた。それで成功したのにバイカー向けのブランドに特化しなかったセンスも〈クロムハーツ〉の成功理由のひとつだが、後に女性向けの豪華絢爛なゴールドやプラチナのジュエリーを作るようになっても、ヨーロッパのメゾンであれば決して企画すらしないであろうデザインを数え切れないほどリリースしてきたのだ。リチャードはそれを「ガレージロックの精神を失わずに大きくなった」と表現している。
現在メインデザイナーとして活躍するリチャードの長女、ジェシー・ジョー・スタークはファミリービジネスについて以下のようにインタビューで答えていた。
「父(リチャード)は何も変えたくないタイプ。母(ローリー・リン・スターク)は新しいモノが大好き。私はその中間」
やっぱりリチャードはオールドスクールを好む「ガレージロック魂」の支えなのだ。


こちらもニューヨーク本店のスタッフであるモコとの一枚。リチャードも丸くなったのか(?)、トレードマークだった長髪のカーリーヘアはある時を境にバッサリと短髪に。しかし自身のブランドの革製品とジュエリーを身に着けて、エンジニアブーツを履くスタイルは変わらない。

広告写真としても採用されたリチャードのレザーパンツスタイル。両手の小指にリングを重ね着けするのも昔から変わらないこだわりのようだ。バックルはアメリカ国旗をダイヤモンド、サファイア、ルビーで表現したスペシャルデザイン。

自分らしく自然体で〈クロムハーツ〉を成長させたカリスマ

それでは、なぜリチャード・スタークが「スタイルのある人」なのか。「生き方や暮らし方に自分なりの基準やこだわりを持ち、品位も備わっている人」をLIVE IN RUGGED流の「スタイルのある人」と先に定義したが、リチャードが「自分を持っている」ことを物語るエピソードには事欠かない。毎日のように黒いTシャツとレザーパンツを穿き、足元はボロボロのエンジニアブーツ。レザーパンツとエンジニアブーツはリアルバイカーとして当然の選択なのだろうが、特にレザーパンツに対しては愛着が強く、20年ほど前に発売された雑誌で以下のように語っている。
「レザーパンツは毎日穿いているよ。家に一人でいたら穿いたまま寝てしまうしね。もしこの仕事を追われることがあったら、その後の人生のためにレザーパンツを20本作ってからやめるよ」
〈クロムハーツ〉のレザーパンツは革が分厚く、穿きこなすにはかなり手強い部類(ソフトなレザーのモデルもあるが、恐らくリチャードはへヴィータイプばかりを穿いている)。だから、私を含めた普通の人からすると、日常的に愛用するには相当の愛が必要だと思ってしまう。それなのに人生の一部として当たり前のように自分でデザインしたレザーパンツを毎日穿いていることが、月並みだけれど理屈抜きのカッコ良さがあるのだ。リチャードが超ヘビロテでレザーパンツを愛用するのはファッションではなくスタイルに他ならない。「自分を持っている」ぶれないスタイルがあり、多くの男がそれに共感しているのではないだろうか。
また、「自分らしく生きていること」と「自然体でいること」も、まるでリチャードのためにあるような言葉だと思う。〈クロムハーツ〉を作るずっと前に大工の道を志すも、途中で皮革製品のセールスマンに転職しているのだが、愛車のHARLEY DAVIDSON(ハーレー・ダヴィッドソン)で全米を回ってセールスしていたという。何ともアメリカンなエピソード!〈クロムハーツ〉を作ってからはビジネスとして成功させながら、自分たちがカッコ悪いと思うことは決してやらなかった。既存のラグジュアリーブランドからも影響は受けているだろうが、私たちが目にするものすべて…商品から店舗設計、シルバーでできた青山店のバスケットゴールに至るまで、ありとあらゆるモノ作りを〈クロムハーツ〉というフィルターを通して行っている。
リチャードは〈Off-White™(オフホワイト)〉のデザイナーであるヴァージル・アブローが「真のカリスマ」と言うほどの人物なのに、自分からそのような態度を取ることもない。雑誌の写真撮影でカメラマンが腕を組んでとリクエストしても、「腕を組んで写真に写るのは粋がったラッパーみたいで嫌なんだ」と断ったりする。〈クロムハーツ〉というファミリービジネスへの愛情と情熱は誰よりも強いが、生き方自体はシンプルでどこまでも自然体。メディア向けに自分を飾ることもなく、どんなシーンでも自分自身であり続ける姿勢は、誰もがそうでありたいと憧れる生き方のようにも思う。


チョッパー仕様のハーレー・ダヴィッドソン…かと思いきや、ハーレー風にフレームから製作した自転車にまたがるリチャード。これをキコキコ乗っている姿を想像すると何だか可愛らしい。

長女のジェシー・ジョー・スターク(中央)、妻のローリー・リン・スターク(右端)と一緒に。近年は黒いTシャツの上にキルティング仕様のベストを着ているコーディネートがお気に入りの模様。

リチャードのメッセージに込められた想いと、ぶれないスタイル

リチャードは「他人にどう見られようと、どう映ろうと構わない」と自身のファッションについて語る。これが決して洋服に無頓着なわけではないのは、皆さんも共感いただけるだろう。「これが自分なのだ」と真っ直ぐな芯を持っている人は、言い方は少しづつ違えど同じような考え方を持っている。着飾ることの引き出しが多いことも楽しく素敵だけれど、わずかな引き出しの中にとっておきの逸品がある感じ…それはシンプルで潔い生き方にもつながっていく。品位がある=きらびやかに着飾った人ではない。品位は生き方や暮らし方、モノとの付き合い方から自然と表れることであり、いつの間にか本人も気付かないうちに身に付いていることなのだと思う。
自分が好きなことに徹底的に夢中になり、ゼロから世界的に著名なラグジュアリーブランドを作り上げたリチャード・スタークは、一見するとアメリカのどこにでもいるハードコアなバイカーに見えてしまうかもしれない。でも、すぐにリチャードならではのスタイルがあることに気付くはずだ。ボロボロになってもリペアしながら穿き続けるレザーパンツやエンジニアブーツ、スターリングシルバー製のジュエリーから品位が匂い立つように感じられるのは、きっと私だけではない。
実は、〈クロムハーツ〉にはブランドを表すメッセージがあることをご存知だろうか?
CHROME HEARTS will get you somewhere that makes you feel like your home
〈クロムハーツ〉は自分が自分だと思える場所まで連れて行ってくれる
〈クロムハーツ〉のメッセージは、自分を見失いそうな時に思い出すと勇気を与えてくれる。いつの間にか世の中や周囲の影響を受けて流されたり、悩んでしまう自分に対して、本当に大切なことを見失わず、自分の信じた道を突き進んでいこう。もっと人生を自分なりに楽しもう…そう思えてくるのだ。このメッセージは、リチャードを通して〈クロムハーツ〉が発信するブランドの指針のようなものであり、ファンへの温かい言葉でもある。
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