Behind the creative BARK OUTSIDERS

【インタビュー】大切なのは、作り手が思いっきり楽しんで制作すること – BARK OUTSIDERS

クリエイターの数だけヒストリーとバックグラウンドがある。不定期連載「BEHIND」第1回はBARK OUTSIDERSのデザイナー・クリエイターの森田さん。画一的な組織から外れた場所で制作活動を行う想いを聞いた。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : BARK OUTSIDERS

クリエイティブの裏側に注目する新連載「BEHIND」スタート

「スモール・イズ・ビューティフル」という言葉が好きだ。この言葉を耳にする機会は少しずつ増えてきたが、元ネタは1973年に発行されたイギリスの経済学者、エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー氏が執筆した経済学に関するエッセイ集を指す。
この本でシューマッハー氏は石油危機を予言したり、原子力についてかなり早い段階から安全性の重要さを説いていた。それらも凄いことなのだが、私が好きなのはそういった小難しい話のことではなく、「小さいことは美しい」という価値観そのもの。LIVE IN RUGGEDでは度々大量生産・大量消費にアンチの精神を表してきたが、それは「スモール・イズ・ビューティフル」の価値観に強い共感を覚えるから。誰かが自分のクリエイティブを表現する何かは、例え規模は小さくても美しいのだ。
本日が第1回の不定期連載「BEHIND」では、デザイナーや職人など何かをクリエイトする人たちのヒストリーやバックグラウンドに迫っていく。まずはBARK OUTSIDERSで腕時計のウォッチベルトやバッグを制作する森田さんにインタビュー。モノ作りへのこだわりや思い、ファッションに対する思い出なども語っていただいた。


ヴィンテージのSEIKOに完璧にマッチするBARK OUTSIDERSのウォッチベルト。すべてハンドメイドで一点一点制作するスタイルを貫いている。

同じレザーでもひとつひとつシボ感が違うのは、フルベジタブルタンニンレザーならでは。色によってかなり雰囲気が変わる。

小学生で洋服に目覚めファッション業界へ
「欲しいものが売っていない」のでモノ作りを始める

BARK OUTSIDERSは大手アパレルで長年ファッション業界に携わってきた森田さんがひとりで運営する。主に腕時計用のウォッチベルトやバッグを制作しており、新作はもちろん、定番アイテムもあっという間にソールドアウトになってしまう人気ブランドだ。
森田さんは、長年アパレル業界で働く中で、自分達が本当に欲しいものを供給できない小売の仕組みに違和感と疑問を抱いていたという。お店は星の数ほどあるのに自分たちが欲しいモノはどこにも売っていない…。これは、セレクトショップや百貨店などの小売業界の問題の核心のひとつだと思う。「失敗をしてもいい、軽いフットワークで世の中に発信できるブランドがあったら圧倒的に魅力的ではないか」と語る森田さんとファッションとの出会いはどんなきっかけだったのだろうか。
――― ファッションに目覚めたのは何歳くらいでしたか?初めて夢中になったファッションやブランドについて教えてください。
「意識として覚えているのは、東京で生まれ育っているせいか、小学生の中学年頃からBoonとかの雑誌を読んでいましたね。そんな感じだから生意気にリーバイスの501をアメ横で買ってもらったり、スニーカーやG-shockのモデルを暗記して唱えていました(笑)今考えるとかなりヤバい子供ですね…。
その頃メンズブランドは少なかったのですが、洋服が好きな人はアメカジや裏原ファッションに夢中になっていて最高な時代でした!」
うーん、とても共感。筆者もファッションに目覚め始めた10代の頃にBoonやStreet Jackなどのファッション誌を穴が空くほど繰り返し読み、楽しみながらも必死にブランド名やモデル、ウンチクなどを学んでいた経験があり、森田さんのファッションとの出会いを聞いて一瞬でノスタルジーを感じてしまった。そんな森田さんなら、これまでの仕事のキャリアも興味深い。
――― これまでのお仕事について教えてください。どんなことを仕事にされてきましたか?
「ずっと洋服畑ですが、セレクトショップでのアパレルの店頭経験が長いですね。世界中の良い物が集まる環境だったし、洋服屋って、ない物ねだりと言いますか他人と差別化するためのこだわりアイテムを集める人種なので、そこで自分の好きなテイストは決まりましたね。あとは今やっていることに近いんですが、アパレルの生産管理で工場さんとやりとりをしてたりしました」
なるほど、やはり洋服が大好きで常にファッションに囲まれる仕事をしていたようだ。店頭で長く接客してきた経験と、工場と折衷するスキルは今のモノ作りにもつながるキャリアと言えるだろう。でも、どうして自分でモノ作りをしようと思ったのだろう。
――― モノ作りを始めたきっかけや理由って何でしょうか?
「もともと服飾の専門を出ているのでモノ作りの素養があったのかもしれませんが…。
私が数年前にセイコーのサードダイバーを購入しまして、それに付ける良いストラップがどこにもなかったんですよね。 それで、ないなら自分で作ってみようと思い、革の卸売り店が多い浅草に行って資材を集めてスタートしました。できたストラップをインスタにアップしてたりしたら欲しいと申し出ていただける方がいらっしゃったので、販売するに至ったのがきっかけです」
先にも書いた「お店は星の数ほどあるのに自分たちが欲しいモノはどこにも売っていない」というジレンマにぶつかったことが、自らクリエイションするきっかけとなった。これは多くのデザイナーやクリエイターがモノ作りをする強い理由のひとつだ。ないなら作ってやろうというプリミティブな気持ちはピュアなので原動力が強い。続いて、モノ作りへのこだわりについて伺ってみた。


ブランド名と「Made in Japan」のスタンプにモノ作りへの熱意が表れている。日本製であることのこだわりはとても強い。

ベルト幅の異なるタイプを用意。ブラックやブラウンのレザーは特にヴィンテージウォッチとの相性が抜群。

商品だけじゃなくパッケージまで含めてこだわりを
すべてひとりで作るのは大変だけど、自分が納得するものを届けたい

――― BARK OUTSIDERSでモノ作りをする時はどんなことにこだわっていますか?
「ん~、一言で言うと難しいんですけど、ル○ネで売っても全然売れなそうなもの(笑)
自分が欲しいと思う明確なビジョンを構想したら、コスト度外視でサンプルを作ってみて、とにかく世に出してみることにしています。そうしたら必ず共感してくれる人がいて、そこに届けば良いのかな、というマインドでやっていますね!だから普通の人から見たら全然良さが分からない様なモノができるから、大手百貨店やファッションビル向けではないかもしれません」
笑いながら話してくれたが、メインストリームに寄せない方向こそがスモールビジネスの活路でもある。BARK OUTSIDERSが気になる人は百貨店に行けばすぐに手に入るようなモノは求めていないし、そもそも他では売っていないからモノ作りを始めたのがブランドの原点。
しかし、オリジナリティを出しながら高品質のモノを作るのは並大抵のことではない。
――― BARK OUTSIDERSのウォッチベルトは他ブランドと比較しても素晴らしい品質です。インスピレーションはどこから得ていますか?また、高いクオリティを保つために工夫されていることはありますか?
「自他ともに認めるモノマニアなので、自分が欲しいと思えるレベルに到達するのは大変なんです…。普段着ているものや身につけているモノはヴィンテージが多いので、それに合うモノってなんだろうといつも考えていますね。資材だけじゃなくてパッケージやインスタグラムのイメージなども含め、自分が納得できるものをお届けしたいです」
――― ご自身でブランドを運営していて、楽しいことや喜びを感じるのはどんな時ですか?また、大変に感じることがあれば教えてください。
「ひとりで運営しているので、すべて自分で決めなければいけないことでしょうか。複数でやっていれば誰かのアイデアを借りたりできますが、先が見えなくても自分がイメージしたことが正しいと信じて突き進むしかないんです。
だから、お客様から商品を気に入っていただけたり、応援していますと連絡をもらえた時に、プロダクトを通して自分と同じように感じてもらえたんだな~と実感できて、本当にやりがいを感じます」
BARK OUTSIDERSは森田さんがデザインを始めとしたクリエイティブと基本的な設計を担当し、制作は鎌倉の革工房「キナリ革工房」と協力しながら行っている。「キナリ革工房」はメーカーのエンジニアを経て独立した革職人の坂根さんが運営する工房で、バッグやウォッチベルトといったプロダクトは坂根さんと森田さんが二人三脚で制作するスタイルをとっているそうだ。昨年はテレビ番組「人生の楽園」に坂根さんが出演し、BARK OUTSIDERSのトートバッグも紹介された。


トートバッグ用のレザーを裁断する様子。厚みがあり質の良い革であることが写真からも伝わってくる。

ハンドルとボディをミシンでひとつずつ縫っていく。ミシン目は美的観点からも丁寧な仕事が求められる部分。


一点一点手作業で制作していく。バックオーダーを抱えている時は忙しさの真骨頂だが、それも幸せな瞬間かもしれない。

森田さん自身はヴィンテージのセイコーをプライベートで愛用中。古い国産時計はスイスメイドとはひと味違う独特の雰囲気があり、BARK OUTSIDERSともこれ以上ないほどマッチしている。


BARK OUTSIDERSはウォッチベルトだけではなく革製のバッグも制作する。これはシボ感の強いレザーを贅沢に使ったタイプ。使い込むと色合いが濃くなり、美しくエイジングしていく。

ウォッチベルトとバッグのレザーと色を合わせるのは、さり気なくも上級者のオシャレの楽しみ方。このバッグはスウェードとのコンビ。ボディとハンドルが同系色で微妙に色が違うのも素敵!

画一的で面白みに欠ける大手ファッション業界を横目に、
BARK OUTSIDERSはワクワクするモノ作りを続けていく

ブランドをひとりで運営するのは、周囲が思う以上に労力が必要だ。本来集中したいクリエイティブな部分以外の業務も必要で、多くのクリエイターは「雑務」に嫌気が差してしまう。しかし、森田さんはそこも含めてひとりでモノ作りを続けることに価値を感じているようだ。
ファッション業界で長く働き、自らモノ作りをする森田さんから見て、競合ブランドやファッション業界は今どのように見えるのだろう。
――― 革製品を作るブランドは世の中に多く存在します。森田さんは現在のファッションや服飾雑貨の業界をどのように見ていますか?
「あまりにもスピード感がないので、ワクワクする商品や仕組みを作りにくくなってしまっています。特に大手は。これは仕方ないのですが、みんな同じ様なモノを同じ様なところで売っていますよね。もはや違いがないので銀行みたいに吸収合併しても誰も困らないと思います。
だからこそこれからは卓越した個人が活躍しやすい分野だと思いますので、会社に縛られず好きなことをクリエーションし、発信する人が増えてくれたらもっと楽しくなると思っています。嗜好品なんて作る人が本気で楽しまないと!」
東京でウインドウショッピングをしていると森田さんが言う「みんな同じ様なモノを同じ様なところで売っている」ことを痛感する。百貨店もファッションビルもセレクトショップも、大手はどこも似たようなセレクトばかりだからだ。売れ線を揃えないと店舗運営が厳しくなるのは理解できるが、特に大都市のショップはこの傾向が強い。地方都市の小さなお店の方が遥かに面白いセレクトをしている。
最後に、ブランドの今後はどう考えているのだろうか。
「商品をたくさん広げようと思っていません。むしろ本当に良いと思える品揃えをするために、じっくりデザインしていきたいです。POPUPやイベントでもいいので、いつかお買い上げいただいている皆様にお会いできることが夢ですね!その時はLIVE IN RUGGEDの読者の方々も宜しくお願いします!」
大手が似たようなモノを多く取り扱うようになるのは日本だけではなく欧米でも同様だ。誰もが同じ人気ブランドを売っていることで、最終的には価格競争をせざるを得なくなるという負のスパイラルに陥っている。一方、個人がクリエイトするブランドはもっと自由。もちろん個人が運営するブランドでも、今売れているデザインをコピーしたような商品は数え切れないほど多い。しかし、言われるまでは個人レベルとは思えないほど高い品質で制作するブランドも確かにある。
BARK OUTSIDERSが販売するアイテムが即完売し、多くのファッション好きと腕時計好きが新作の発売を待ちわびているのは、デザイナー兼職人の森田さんに審美眼があり、センスも技術力も高いからだろう。ファッション業界で多くの良いモノを実際に見てきた経験と知見は、一朝一夕で養えるものではない。
BARK OUTSIDERSのアイテムを見ていると「スモール・イズ・ビューティフル」の精神が息づいているように思えてくる。大手企業と比べたら規模は小さいかもしれないが、モノの本質とは規模の大小ではない。デザインが美しくて、長持ちして、機能的で、ずっと使い続けたいと思えること…洋服でも服飾雑貨でも、モノの本質はそういう部分にあるのではないだろうか。BARK OUTSIDERSは、きっとこれからも本質を見失わない良質なモノ作りを続けてくれるはずだ。

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