孤高のカリスマ – F40は今でも最高のフェラーリか

「フェラーリの市販車史上もっとも過激なモデル」と称されるF40。テクノロジーが進歩し、速さでも快適性でも現代のフェラーリが負ける要素はまったくないにもかかわらず、いまだにファンから崇拝されるF40とはどんなクルマなのだろうか。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : SPEEDHUNTERS

エンツォ・フェラーリの息吹きが掛かった最後のフェラーリ

2017年7月21日、フェラーリF40が正式にデビューしてから30年が経過した。1987年7月21日にフェラーリの40周年を記念して製作された特別モデルであるF40。この角ばった攻撃的なルックスのクルマについて語ろうとすると、文字通り語りどころが多すぎてまとめるのが大変だ。まずは誕生の経緯から簡単に振り返ってみよう。
F40は創設者のエンツォ・フェラーリが最後に手掛けたモデルであり、「そのままレースに出られる市販車」という車作りの基本理念を具現化したモデルでもある。元々フェラーリはF1に参戦するために市販車を製作するメーカーであり、エンツォ自体もレーシングカーとモータースポーツを何よりも愛する人間だったので、我々日本人が耳にすると違和感すら覚える「そのままレースに出られる市販車」というコンセプトは、フェラーリにとって何ら特別でもないことだったのだろう。エンツォは1988年8月14日に亡くなったので、F40が世に出た様子をもしかしたら目にしたかもしれない。自動車業界の偉人であるエンツォが最後に世に送り出した跳ね馬であることが、まずはF40を特別な存在にしている。


いかにもスーパーカー然とした角ばったボディ。リトラクタブルライトも懐かしさを感じる造形だ。

フェラーリ伝統の丸型4灯のテールライトが実にクール。センター3本出しのマフラーや大型のリアウイングが過激な性格を物語る。

悪魔の心臓を持つ跳ね馬

では、エンツォが手掛けた最後のフェラーリというノスタルジックな側面がもっとも評価されているのだろうか?答えは当然Noだ。F40がここまで神格化された理由は攻撃性にある。
もっともよく知られているのが並外れたパワーを制御する難しさだろう。F40には2,936ccのV8ツインターボエンジンであるTipo F120A型が搭載されている。これはかつてグループB規定で争われていたWRCおよびレース参戦を目論んで発売されたコンペティションベースモデルの288GTO、およびその改良版である288GTOエヴォルツィオーネから引継ぎ、改良を加えたもの。最高出力は478馬力と今の時代のスーパーカーと比較するとやや控えめに感じるレベルだが、F40のツインターボはいわゆる「ドッカンターボ」だった。パワーバンドに入った途端、急激に立ち上がる強大なパワーには多くのドライバーが恐れをなしたという。
また、F40をドライブする時は電子制御の類が一切ないことも決して忘れてはいけない。ABSやトラクションコントロールがなく、あるボーダーラインを境目に爆発するようにパワーが炸裂する500馬力弱のフェラーリ。発売当時フェラーリのF1ドライバーであり、F40の車両開発も担当したゲルハルト・ベルガーが「雨の日には絶対に乗りたくない」「雨の日にはガレージから出すな」と言わせたという逸話は特に有名なエピソードだ。現役のF1ドライバーにそこまで言わせる市販車が当時どのくらいあっただろうか?恐らくF40以外には存在しなかったはずだ。


簡素なインテリアにも注目。アナログなタコメーターやスピードメーター、各種油圧計などが並ぶだけで、内装を飾るようなものは何もない。「そのままレースに出られる市販車」には装飾の類は必要ないのだ。

ハンドル中央にはめられた跳ね馬のエンブレムが唯一ある飾りっ気だろうか。運転中に目に入るエンブレムはフェラーリをドライブしている特別さを常に思い起こさせるだろう。

今でも跳ね馬ファンから尊敬と崇拝を集める特別なクルマ

スパルタン過ぎる性格がかえってファンから愛されるというのがいかにもスーパーカー的で面白い。F40以降、F50やフェラーリ・エンツォなどのスペチアーレがいくつも誕生しているが、本当の意味でカーエンスージアストたちからの尊敬と崇拝を集めるのはF40と言っていいだろう。
なぜなら、このクルマはアナログ時代が生んだ本物のモンスターだからだ。電子制御が発達し、いまやマニュアルシフトさえなくなった今の時代の目線で見ると、F40には黄金時代の良いところがすべて詰まっている。過激なエンジン。快適性を無視するかのような内装。利便性を度外視したエアロパーツ。私は何度かF40が目の前で走る姿を見たことがあるが、そのサウンドは爆音そのものだった。低回転時の唸るような重低音と、全開で疾走する時のF1を彷彿させる甲高い音はワイルドそのもので、全身に鳥肌が立った記憶がある。
F40を所有できる人は本当に幸せだ。フェラーリを象徴する名車であり、ワイルドな時代を象徴する名車でもある。一度も運転経験がない私が行っても説得力がないが、ひとつアドバイスするならやっぱりこう言うだろう…「雨の日は本当に気を付けて」。

CREDIT
  • Ferrari:F40