なぜ私たちは機械式時計を愛するのか?

クオーツ時計はもちろん、今やスマートウォッチも腕時計業界の主流になりつつある現代。それでも私たちがアナログな機械式時計を愛するのはなぜなのか?


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : Monochrome Watches

熟練の職人技術の結晶だから

まず真っ先に挙げられるのは、機械式時計が熟練職人の卓越した技術の結晶だからということ。時計職人は最低数年は修行を積んで技術を学ぶ。数十年間時計を作り続けている職人もとても多い。彼らが膨大な時間を掛けて手に入れた技術やセンスは他には替えることができない特別なスキルだ。
電池で動くクオーツ時計も人間の叡智の賜物だが、よりインスタントで人の手を必要としない機構であり、機械式時計とはまったく別物と言って良い。手作りで作られる機械式時計は数百ものパーツで構成された複雑なメカであり、メーカーによってその設計や機構も異なる。当然、製作された時代によっても違う。それらの複雑な作りは工業製品を超えた芸術品として時計ファンを魅了している。
ハイテク化が進み、機械がオートメーションでモノを作ることがメインとなった今の時代でも、機械式時計は非常に高度なスキルを持つ職人のハンドメイドを堪能できるアイテムなのだ。


ロレックス・サブマリーナ Ref.5513。ヴィンテージ・ロレックスの中でも常に高い人気を持つダイバーズウォッチの金字塔。灼けたインデックスがいかにもヴィンテージらしい重厚なオーラを放つ。

Ref.5513は1962年~1989年という長期間に渡って生産された自動巻きムーブメントの傑作。約30年間生産されたムーブメントなので中古市場でもすぐに見つけることができる。

価値があるから

機械式高級時計だけを購入する人が特に重視するポイントのひとつが、その価値だ。前述の通り機械式時計は熟練職人の技術の結晶であるため、単純にモノとしての価値が高い。これは大量生産のハイブリッドカーよりも少量生産のスーパーカーの方が価値が高いことに似ている。どんなモノでも人間が高いスキルを持って作るモノの方が評価されることは当然のことだ。資産価値がクオーツ時計やスマートウォッチよりも高いことは購入の大きな動機になる。
例えばロレックスの機械式時計はどの時代に作られていようとも、ほぼあらゆるモデルが永続的な価値を保ち続けることで知られている。モノによっては購入時の価格を遥かに上回る価格に上昇することもまったく珍しくない。ブランドにもよるが、これはロレックス以外のメーカーにも共通する事実である。機械式時計は電気式とは違い、例え不具合が生じてもほとんどの場合修理可能。適切なメンテナンスさえ行えば文字通り一生物になり得る…これも機械式時計の大きなアドバンテージと言えるだろう。


タグ・ホイヤー オータヴィア ジャック・ホイヤー生誕85周年リミテッドエディション。2017年に発売された1932本限定モデルで、ジャック・ホイヤーが85歳の誕生日を迎えるのを記念して作られた。かつて作られたオータヴィアを現代的に解釈して生まれ変わらせたルックスはタグ・ホイヤーファンはもちろん、多くの機械式時計ファンを狂喜させた。

バックケースにはジャック・ホイヤーのサインが刻まれる。ムーブメントは自動巻クロノグラフ キャリバー ホイヤー02。約80時間のパワーリザーブ、28,800振動など、ヴィンテージに比べてよりモダンでハイスペックな機能性も魅力。

アナログだから

「アナログだから」という理由は矛盾を感じるかもしれないが、人間はどれほどテクノロジーが進歩しても手作りに価値を見出す生き物だと思う。あっという間に完成する大量生産を否定はしない。しかし、手間と時間を掛けて丁寧に作られる腕時計は「ハンドメイドの良心」とも言える存在だし、男女問わず私たちはそういったモノを愛している。
アナログなモノは簡単に壊れないし、もし壊れても直すことができる。20歳の時に買った腕時計を70歳になっても身に着けられることは機械式時計ならでは。世代を超えて受け継ぐことができるのが機械式時計の魅力のひとつなのだ。
そして、アナログであることは独特の温もりも感じさせる。機械なのに温もりがあるのはヴィンテージカーにも通じる魅力で、クルマ好きに時計マニアが多いのはこういったところが理由かもしれない。
更に、流行とは無縁であることも忘れてはいけない。もちろん腕時計の世界にもその時によってトレンドがあり、市場価格が上下するものの、本質的な価値は変わらない。次から次へと訪れるトレンドに気を配らずに自信を持って身に着けられるモノ…それが機械式時計なのだ。これはロレックスであろうとセイコーであろうと関係ない。
想像を超えるような素晴らしい技術でもって製作されること。本質的な価値があること。アナログの美学があること。これらの強い魅力は私たち時計ファンが機械式時計を愛する理由でもある。

ITEM CREDIT
  • Rolex:Submariner Ref.5513
  • Tag Heuer:Autavia Jack Heuer 85th Anniversary Edition