洗練とワイルドを同時に味わえるA.P.C.のジーンズ

フランス生まれのファッションブランドなのにコアなデニム狂がこぞって愛用するA.P.C.(アーペーセー)のジーンズ。「Less is more」をコンセプトに掲げ、シンプルネスを追求するA.P.C.のジーンズが安定して支持される理由は何だろう?今日はこのフレンチブランドの魅力に迫ってみよう。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : A.P.C.

A.P.C.とは?

1986年にJean Toutou(ジャン・トゥイトゥ)が立ち上げたA.P.C.は、フランスのカジュアルベーシックをベースに、着心地や見た目の美しさを考慮した立体裁断による機能的な設計が基本にある。A.P.C.はどちらかというとメゾン系のブランドなのだが、ストリートテイストがバランスよく配されているところがユニークだ。そして、それこそモード系からストリート系まで幅広い層から支持される大きい理由でもある。
ヨーロッパのメゾンブランドの多くがブランド名にデザイナーの名前を冠するのに対し、A.P.C.は「Atelier de Production et de Creation(生産と創造の工房)」の頭文字を採用。これには、個性的ではなくベーシックな作りだからこそ、着る人によって個性が最大限に引き出されるという意図が込められているという。
A.P.C.のジーンズにはヨーロッパらしいモダンで垢抜けたテイストが色濃く出ているが、同時にストリートらしさや職人気質な精神もある。


A.P.C.のジーンズはシルエットの美しさに定評がある。ローライズされた腰回りや裾に向かってテーパードするタイトなシルエットが人気のプチニュースタンダード。

ヒップ回りもスッキリしていてもたつきがない。バックポケットは大きすぎず小さすぎない計算し尽くしたサイズだ。

すべてのジーンズにこだわりの日本製デニムを採用

新品状態の上の写真を見るといかにも洗練された印象だが、A.P.C.のジーンズは強烈な色落ちをすることで有名。
まず、生地はすべて日本製のセルヴィッジデニムを使用。かつて縫製等も日本で行っていたが、現在は生地は日本、製造はマカオで行われている。生地を構成するタテ糸にはマザーコットンと呼ばれる高級綿糸を使用。何度もインディゴ染めを行うことで深い濃紺に染まっており、それがコントラストの強い色落ちへとつながる。
ちなみにこのセルヴィッジデニム、日本にある工場でA.P.C.専用に開発したという噂を聞いたことがある。ジャパンデニムが世界一のクオリティなのはデニム好きであれば常識だが、フランスのメゾン系ブランドが徹底して日本製にこだわることは日本人としてとても嬉しい。


強烈に色落ちした見本のようなジーンズ。膝裏の立体的で細かいハチノスにまず目を奪われる。全体的に淡いグラデーションを描くようにエイジングしており、A.P.C.らしい色合いだ。

ボタンやリベットなどの副資材もすべてオリジナルを製作。光沢のあるメタルパーツは穿きこんでもほとんどエイジングしないため、ここはファンからも賛否両論があったりする。

絶対的な自信があるからこそできるバトラープログラム

A.P.Cのデニムへの強いこだわりと自信を物語ることのひとつとして、バトラープログラムが挙げられる。これは穿き古したA.P.C.のジーンズを店頭に持ち込むと、それを引き取られる代わりに新しいジーンズを半額で購入できるというシステム。採用されたジーンズはショップが丁寧に洗い、元オーナーのイニシャルが記されたうえで再販される。
採用されるにはいわゆる「カッコいい色落ち」にエイジングしていることが必須なのだが、ユーザーを参加させる体験型のプログラムとしてとても面白いし、A.P.C.自身が自分たちの作るジーンズに絶対の自信を持っていることの裏付けとも言える。


限界まで穿きこみアイスブルーまで色落ちした一本。裂けて広がった穴が生々しい。

やはりハチノスの色落ちが凄まじい。タイトなシルエットであるプチニュースタンダードならではのエイジングだ。

洗練と荒々しさを同時に味わえる稀有なブランド

A.P.C.のジーンズを購入すると「洗い方レシピ」が付属してくる。これにいくつかブランドが推奨する洗い方が記載されているのだが、その内容が半分おふざけ・半分真面目で面白いので抜粋して紹介しよう。
◆過激主義
洗濯をせずにできる限りジーンズを穿き続ける。限界がきて洗う初回洗いはドライクリーニング。2回目からは濃色専用の色落ちがしづらい洗剤を水に少量だけ混ぜて1時間程度浸けておき、すすいでバスタオルに包んで干す。
※ドライクリーニングに出す際はリジッドデニムのクリーニングに精通した店を選ぶことが非常に重要
◆セミ過激主義
洗濯をせずにできる限りジーンズを穿き続けることに変わりはないが、洗う時は濃色用洗剤を1時間程度浸けておき、こすらずにすすぎと脱水をして干すというもの。
◆洗濯機
3つめになってようやく洗濯機が許される。ただし濃色用洗剤必須で、常温水、デリケート洗い、脱水なしでの設定が良いという注意書きがある。
◆海水&砂
ジーンズを履いたまま海に入り、乾いた砂でこするという作業を数回繰り返したのち、水ですすぎ、太陽の直射日光で乾かすというもの。
ある意味上記の過激主義よりも過激だと思う。実際にやったユーザーもいるようだが、汗や皮脂と海水が化学反応を起こし「腐った何か」のような匂いが発生したという体験談があるので、まったくおすすめしない。
A.P.C.のジーンズには100%コットン(14.5oz)かストレッチの効いた(12.75oz)ものがあるが、どちらにするかは好みで良いだろう。この記事に掲載している写真のようにメリハリの強い色落ちを目指すなら、穿き始めから6ヵ月程度は根性穿きで乗り切るのがおすすめ。ただし、極端に洗うことを我慢すると匂いが気になってくるのはもちろん、汗や皮脂でデニムにダメージが蓄積し、後々望まない穴が空いたりする可能性も。
フレンチブランドならではの洗練されたシルエットや雰囲気とジャパンデニム特有の「本物感」を同時に味わえるのがA.P.C.の強い魅力だ。レプリカ系ブランドよりも大人っぽいファッションに合わせやすい点も美点と言えるだろう。ぜひ、A.P.C.のバトラープログラムに持ち込んでショップ店員が驚くほどカッコいい色落ちに育ててほしい。

ITEM CREDIT
  • A.P.C.:Petit new standard