クロノグラフと気品が出会う時 – カルティエ・サントス・クロノグラフ
カルティエのサントスは「世界初の男性用腕時計」として広く知られている。現在の腕時計の礎であり、時計史上もっともエポックメイキングなモデルのひとつであるこの腕時計にクロノグラフモデルがあることをご存知だろうか。本日はサントス・クロノグラフの魅力に迫る。
腕時計のすべての始まりはサントスにあり
まずはこの傑作のヒストリーを探ってみよう。サントスは1904年にカルティエの第3代目当主、ルイ・カルティエのアイディアで生まれた。ブラジルのコーヒー王の子息であり、世界的な飛行家として知られたアルベルト・サントス=デュモンからの「飛行機の操縦中に懐中時計を取り出して時間を見るのが困難だ」という相談をもとに腕に着ける時計を考案したと言われている。それまでは懐中時計が一般的だったため、カルティエが生み出した腕時計は機能性を求めた必然的な結果だった。
実はこの「世界初」には諸説ある。ジラール・ペルゴは1880年にドイツ皇帝のウィルヘルム1世の注文により、ドイツ海軍将校のため2,000本の腕時計を製造した。これが「世界初の腕時計」であるとする説もあるが、その構造は懐中時計のケースにベルトを通す金具を付けただけ。実質的には懐中時計とほとんど変わらないため、サントスこそが世界初と言われているのだ。
一方サントスは時計のケースを正方形にし、その四隅から流れるような突起(ラグ)を成形。その間にベルトを付けるという画期的な構造で成り立っていた。まさに現代の腕時計に通じる設計だ。こうしてサントスは機能とデザインの両方で称賛され、腕時計のベースとなり得た。
高級感と落ち着いたセンスがバランスよく配されている
サントス・クロノグラフを初めて見た時、実は強い違和感を感じた。これがカルティエ・サントスの派生モデルであることは観た瞬間に脳が認識できたのだが、まるでロボットのように3つのカウンターが文字盤に備わっている。サントスと言えばシンプルを極めたようなスッキリしたデザインこそ正義と思っていたので、クロノグラフ版には少し驚いてしまった…というのが正直なところ。ただ、その違和感は「カッコ悪い」というネガティブな感想ではなく、純粋に興味を惹かれるものだった。3カウンターが備わることでよりメカメカしいルックスになっているところも男から見るとたまらなかったりする。
調べてみたところ、サントス・クロノグラフには3種類のケースが用意されていることが分かった。ブラックADLCスチールベゼル付きステンレススチール、18kイエローゴールドベゼル付きステンレススチール、ソリッド18kローズゴールド。それぞれにブラックADLCスチールブレスレット、2トーンスチールとゴールドブレスレット、さまざまなワニ革ストラップ、ゴム製ストラップなどのオプションがあり、ストラップとブレスレットが混在している。それらのストラップはすべてクイックスイッチシステムが備わっているため、簡単に自分で交換できるはずだ。
まず目を惹かれたのはブラックADLCスチールベゼル付きステンレススチールモデル。ブラック×ホワイトの2トーンがいかにもヨーロッパのモードファッションを彷彿させる素晴らしいデザインだ。モノトーンのスーツやジャケットスタイルとの相性は最高だろう。高級感あふれる白い文字盤にいつものローマ数字やCartierロゴが入り、針やインデックスなどもブラック×ホワイトで統一されている。
ケースは湾曲した有機的なシルバーの上に艶消しのマットブラックが乗り、カルティエのアイコンのひとつであるビス留めでしっかりとセットされている。ストラップはラバーだとよりスポーティーで、ワニ革はグッとラグジュアリー。
ケースは湾曲した有機的なシルバーの上に艶消しのマットブラックが乗り、カルティエのアイコンのひとつであるビス留めでしっかりとセットされている。ストラップはラバーだとよりスポーティーで、ワニ革はグッとラグジュアリー。
18kイエローゴールドベゼル付きステンレススチールモデルはシルバー×ゴールドがカジュアル感とゴージャスさがミックスされたカルティエらしいコンビだ。ベゼル部分のみゴールドなので男性でも取り入れやすいだろう。こちらはラバー製と2トーンスチール製ブレスレットではだいぶ印象が変わる。より男らしさを狙うのであればラバー製、上品にまとめたい時はツートンスチール製といったところだろうか。
ソリッド18kローズゴールドモデルはカルティエのジュエラーらしさ溢れる一本。カーブを描くケースと相まって実に優雅なイメージを演出してくれる。ブレスレットがラバー製とワニ革というところも男心を分かっている!と感じた。なぜなら、ブレスレットまでオールゴールド製だとToo muchな印象になってしまうから。シックなラバー製かワニ革だと良い具合にカジュアルダウンされて着けやすさと合わせやすさがまったく違うはずだ。
どこまでも気品に溢れ、優雅で、余裕のあるクロノグラフ
ムーブメントにもこだわりが詰まっている。カルティエは1904-CH MCキャリバーを修正。スタート&ストッププッシャーがケースの左側にあるという珍しい構造だ(通常クロノグラフはリューズの上にスタート&ストッププッシャー、下にリセットプッシャーを配置する)。サントス・クロノグラフは左右にボタンを配置することで、美しい対称性を生み出すことに成功している。こういった美的観点への追求を決して怠らないところもカルティエらしいじゃないか。
カルティエ自身がエクストララージサイズと呼んでいる通り、ケース径は横幅43.3mmと大型。これは明らかに大きすぎる傾向があるが、湾曲したラグと丸みを帯びた正方形のプロファイルのおかげで実寸よりも小さく見える。それにしても日本人には少々大きすぎるので、40mmを切るサイズでも作ってくれることを密かに祈ろうと思う。
サントス・クロノグラフは、本来男臭さが先行しがちなクロノグラフというスポーツウォッチに究極のエレガントを注入した稀有な腕時計だ。どこまでも気品に溢れ、優雅で、余裕を感じる。実際に購入できるのはお金持ちだけかもしれないが、願わくば洋服やライフスタイルを含めてセンスのある大人の男性に身に着けてほしい。じゃないと、時計に「着けられる」ことになるのは間違いない。
ITEM CREDIT
- Cartier:Santos Chronograph