Rest in peace Koichi Sugiyama

「ドラゴンクエスト」シリーズの作曲家、すぎやまこういち氏を悼む

音楽の力でゲームの地位を向上させた日本音楽界の巨星。ファンの心にはいくつになってもその音楽が刻まれている。


Written : LIVE IN RUGGED

美しい音楽で多くの人々の心の琴線に触れ続けた

作曲家のすぎやまこういち氏(本名:椙山浩一)が2021年9月30日(木)、敗血症性ショックのため90歳で逝去された。「ドラゴンクエスト」シリーズをはじめとしたゲーム音楽やアニメ、CM、ミュージシャンへの楽曲提供などジャンルを超えて活躍。国内外問わず多くの作曲家、コンポーザー、ミュージシャンに多大な影響を与えた日本音楽界の偉人として知られている。
音楽とゲームが好きな両親の影響で、すぎやま氏も物心ついた頃から音楽もゲームも好きになったという。音楽への情熱が本格的に芽生えたのは戦後の食糧不足で壊血病になり死にかけた時から。この時期にすぎやま氏の父が焼け残った自宅に残っていた反物を持って荻窪の駅前にあったレコード屋に行き、ベートーヴェンのレコードやオーケストラの楽譜と物々交換。それをもとに独学でクラシック音楽の勉強を重ねたという。
音楽大学への進学を断念し東京大学に入学後、フジテレビに入社後は「ザ・ヒットパレード」の企画や作曲、「おとなの漫画」のディレクター業などを務め、退社後に作曲家として独立。1986年に「ドラゴンクエスト」の作曲を手掛けるようになってからはゲーム作曲をメインに専念するようになる。その後の活躍については改めてここで述べる必要はないだろう。
筆者自身が初めてすぎやま氏の音楽に触れたのは小学生時代にプレイした「ドラゴンクエスト3」だった。勇壮な「ロトのテーマ」や「冒険の旅」、物悲しい「鎮魂歌」と「回想」「まどろみの中で」、そして壮大な「勇者の挑戦」…。「ドラゴンクエスト3」はシリーズ屈指の名作として語り継がれており、ストーリーや世界観などすべてが完璧なゲームだったが、素晴らしい音楽があってこその名作だったのは誰もが認める通り。
次作の「ドラゴンクエスト4」ではチャプターごとにストーリーを分けるという斬新な手法でゲームを進行し、登場人物によって音楽性をがらりと変更。プレイヤーをゲームの世界観に没入させることに成功している。
「ドラゴンクエスト5」では数世代にわたる壮大な物語が展開される。主人公の父が無残に殺され、10年以上もの長きにわたり奴隷生活を強いられるなど壮絶な物語が展開される一方で、ドラクエシリーズ初の結婚という一大イベントも展開された。モンスターを仲間にできるようになったのもドラクエ5からだ。音楽的には3や4よりややポップな方向性になったものの、クラシックをベースにした壮大な音楽性はより洗練された印象がある。
「ドラゴンクエスト6」は夢と現実という2軸をベースに描かれており、音楽もそれに合わせて神秘的で幻想的なテーマが多かったように思う。どの作品もプレイヤーひとりひとりの心に強く残るすぎやま氏の音楽は決して色褪せることがない。Youtubeなどで今もオーケストラを聴いている方も多いことだろう(筆者もその一人)。
すぎやま氏の訃報を受け、「ドラゴンクエスト」シリーズのゲームデザイナー、堀井雄二氏とキャラクターデザイナー、鳥山明氏は以下のようなコメントを発表している。

すぎやま先生の、あまりに突然な訃報を聞き本当に残念でなりません。
ドラゴンクエストを作って35年、その世界に、すぎやま先生は音楽という命をずっと吹き込んできてくださいました。
先生には本当に素晴らしい楽曲をいっぱい書いていただきました。
これからもドラクエは、先生の音楽とともにあります。
ユーザーの皆さんの心の中に先生は生き続けるはずです。
すぎやま先生、長い間本当にありがとうございました。

堀井雄二


すぎやま先生の訃報を聞き、驚いています。
つい数年前にお会いした時の印象からもいい意味で、永遠の命を持つ魔法使いのように思っていました。

ドラゴンクエストのイメージは、当時からゲームが大好きでいらした、すぎやま先生の素晴らしく印象的な数々の名曲によって決定付けられたと言っても過言ではありません。

長くご一緒に仕事をさせていただいて本当に光栄でした!
心よりご冥福をお祈りいたします。

鳥山明

これからもずっとすぎやまこういち氏の音楽とともに

多感な子供時代にすぎやまこういち氏の音楽に日常的に触れられたことは筆者にとっても良い思い出であるとともに、貴重な経験だった。今でも音楽を聴くと子供時代の思い出がよみがえって懐かしさを強く感じる。良い音楽は人生とともに歩んでくれると言うが、すぎやまこういち氏が残した数多くの楽曲は多くの人々の人生にこれからも寄り添い続けるだろう。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。