A.P.C. that opened up new possibilities

革新的なジーンズでデニム業界に新しいジャンルを作り上げたA.P.C.の偉大さについて

ヴィンテージディテールとスタイリッシュさの融合。古さをリスペクトしながら新しい世界を確立した〈A.P.C.〉のジーンズの魅力を考える。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : A.P.C.

「細身でスタイリッシュな本格ジーンズ=〈A.P.C.〉」という図式を成立させた偉業

ジーンズ=ヴィンテージもしくはヴィンテージスタイルのレプリカ系という図式しか存在していなかった時代に一石を投じたのが〈A.P.C.(アーペーセー)〉が作るブルージーンズだった。デニム自体は岡山県で旧式力織機を使って生産されるジャパンデニムを使うことで最高の色落ちを実現し、シルエットはモダンで洗練されたスタイル。このありそうでほとんどなかった〈A.P.C.〉のジーンズの登場は、ある意味で革命的だったと記憶している。〈Levi’s®(リーバイス®)〉501®がジーンズ界の絶対的王者であることは誰しも認める事実ではあるものの、元々作業着として生まれた501®をファッションとしてかっこよく着こなすには、恵まれた体格とファッションセンスが必要になる。要するに、ただ何となく穿いてかっこいいのは体格に恵まれたアメリカ人で、細身の日本人の体型には最適ではないのだ。体型に合わないボトムスをかっこよく穿くにはトップスやシューズ選びでセンスを発揮する必要があり、その難易度は高い。〈A.P.C.〉が作る細身のジーンズはその悩みを解決する発明品のようなものであったと言ってもいいだろう。誕生から長い年月を経てもニュースタンダードやプチニュースタンダードといったモデルが今でも生産され続けているのは、〈A.P.C.〉が発明したスタイリッシュな本格ブルージーンズが変わらずに世の中から求められていることを証明している。
メンズ・レディース問わず、トレンドの移り変わりによってボトムスのシルエットの流行も大きく変化する。Hedi Slimane(エディ・スリマン)がかつて指揮を執っていた〈DIOR HOMME(ディオール・オム)〉の影響でスキニー人気が爆発したかと思えば、テーパードシルエットがヨーロッパを筆頭に人気になり、今度はストリート系ファッション全盛になった影響でワイドシルエットが主流になる。10年スパンで繰り返されると言われるファッショントレンドの影響はジーンズという普遍的なボトムスにも多大な影響を与え続けており、オリジネイターである〈リーバイス®〉でさえオーセンティックな501®にこだわらずにその時の時流に合わせた商品開発を行っているのだ。そんな中〈A.P.C.〉のメンズのブルージーンズは基本的に何も変わっていないことにお気づきだろうか。世の中がやれテーパードだ、やれワイドだと節操なく変わっていくのを横目に、相変わらずスキニーに近い細身シェイプのモデルを作り続けている。
ニュースタンダードとプチニュースタンダードではシルエットに差異があるとはいえ、どちらも細身であることは間違いない。なぜ〈A.P.C.〉がここまで細身のシェイプにこだわり続けているのか…それは恐らくブランディングの一環なのではないだろうか。ジーンズ以外の洋服全般がミニマルで洗練されたスタイルを貫く〈A.P.C.〉が作るブルージーンズは、当然ジーンズ以外のウェアとの整合性が必要になる。また、〈A.P.C.〉のファンは「細身でスタイリッシュでありながらオーセンティックなデニムを使ったジーンズ」こそ求めるものなのだと思う。〈A.P.C.〉が突然ワイドシルエットのヴィンテージスタイルを前面に出したモデルを発表したら、選択肢が増えたと喜ぶ人よりも困惑する人の方が多いのではないだろうか。


ローライズでワタリも細く、さらに裾に向かってゆるやかにテーパードしていくプチニュースタンダード。とにかく細い。そして美麗を体現したような美しいシルエット。

ジーンズにとって生命線のひとつであるバックポケットの大きさと設置位置も完璧。大きすぎず小さすぎないサイズと、気持ち低めに設置されたバランス感が気持ちいい。


物撮り画像を見るとより細さが際立って見える。普段太めのシルエットを穿いている人が脚を通すと驚くほど細く感じるだろう。

ブランドによっては耳の色をモデルによって変えているところもあるが、〈A.P.C.〉は伝統的な赤耳しか使わない。


光沢感の強いボタンフライも〈A.P.C.〉のジーンズの特徴。このボタンはどれだけ穿きこんでも経年変化がほとんどない。

リベットも光沢感の強いシルバーカラー。ステッチは茶色に近いオレンジ系。

ヴィンテージのエッセンスがありながらファッションとして成立する稀有なジーンズ

この細さでデニム自体は14.5ozと割とヘヴィーオンスなので、真夏に着用して活発に動き回ると体へのダメージを心配してしまうのだという。確かにノンストレッチの生デニムでタイトフィットだと、その辺を少し走り回るだけで疲労感を強く感じそうだ。ただし、ジャストサイズで数ヵ月選択せずに穿き続けると素晴らしいアタリとヒゲ、ハチノスが生まれる。デニム好きであれば〈A.P.C.〉のジーンズを何年も穿きこんだ状態をご覧になられたことがあるかもしれないが、まさに素晴らしいの一言。あの立体的でバキバキとした色落ちはタイトシルエットならではだ。オリジナルで開発したデニム自体の素質の良さと相まって、一目で〈A.P.C.〉であることが分かるオリジナリティたっぷりの経年変化を見せてくれる。
シンプルでモダン、ミニマルな洋服作りに徹するブランドがハードコアな色落ちに成長するブルージーンズを主力商品として今も作っていることは、洋服好きとしてもデニム狂としてもとても嬉しい。ヴィンテージを彷彿させる素材と作りこみでありながらスタイリッシュに決まる本物のブルージーンズ、未体験の方は一本ワードローブに加えてみてはいかがだろうか。
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