People with style Pt.3 James Jebbia

スタイルのある人 – 【第3回】ジェームズ・ジェビア(シュプリーム)

男も女もスタイルのある人に憧れる。どうしてあの人はいつもあんなに素敵なんだろう…それはきっと揺るぎないスタイルがあるから。連載「PEOPLE WITH STYLE(スタイルのある人)」第3回は〈Supreme〉創設者であるジェームズ・ジェビアにクローズアップ。ストリートから世界を変えた偉大な男の魅力に迫る。


Written : LIVE IN RUGGED

ストリートから始まり、ストリートに向けて作られる至高のファッション

「Supreme」という単語を辞書で検索すると「最高、至高」という言葉がヒットする。この単純にしてそのものズバリのネーミング通り、いや、それ以上の存在へと成長した〈Supreme(シュプリーム)〉は、James Jebbia(ジェームズ・ジェビア)氏が1軒のスケートスタイルに基づくファッションストアを立ち上げたことから始まった。〈シュプリーム〉のファンであっても、創業者であるジェームズ・ジェビア氏について熟知している方は少数派なのではないだろうか?まずはジェームズ氏のバックグラウンドと〈シュプリーム〉の歴史を探ってみよう。
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ジェームズ・ジェビア氏は〈シュプリーム〉を立ち上げる前に、アメリカ・ニューヨークのマンハッタンに「Union NYC」という今では伝説的なショップを経営しながら〈STUSSY(ステューシー)〉創業者であるShawn Stussy(ショーン・ステューシー氏と共に〈ステューシー〉で働いていた。地元のスケーターたちが気軽に入店でき、店内でスケートの試し乗りができるようにと、当時としては珍しく広々とした内装だったという。その「STUSSY NYC」の自由度が高くスケーター想いの思想が現在の〈シュプリーム〉各店舗のベースとなっている。
1994年にスタートした〈シュプリーム〉は、他のストリートブランドと同様にTシャツ作りからスタートした。〈シュプリーム〉1号店ができてからしばらくはオリジナルアイテムはごくわずかしかなく、〈THRASHER(スラッシャー)〉や〈VANS(ヴァンズ)〉、〈DC SHOES(DCシューズ)〉といった当時人気のブランドを取り扱うセレクトショップだった。その中にある〈シュプリーム〉のTシャツが人気を博し、徐々にオリジナル商品を拡大。1997年には看板商品であるボックスロゴのフーディーが誕生している。
〈シュプリーム〉が創業してからしばらくはインターネットビジネスがほぼ存在していなかったため、ジェームズ氏は非常にアナログな方法でブランドをプロモーションしていた。1994年にはニューヨークの街中に貼られていた〈Calvin Klein(カルバン・クライン)〉のモノクロ広告(Kate Moss(ケイト・モス)がモデルを務めていた時代)に〈シュプリーム〉ロゴのステッカーを貼るというゲリラ的な広告を決行。なんと10,000枚ものステッカーを貼りまくり、当時のNEW YORK TIMES(ニューヨーク・タイムス)で特集されたという。今では考えられないプロモーション方法だ。もちろん〈カルバン・クライン〉からは抗議を受けている。
今でこそこのブランドが超が付くほど人気があり、強い影響力を持っていることは当たり前のように思えるけれど、もちろんその実績も伝説も一朝一夕のものではない。「ニューヨークのスケーターから直接の影響を受けた」とジェームズ氏が語るように、〈シュプリーム〉のモノ作りはとことんリアルだった。そして、自分たちのバックボーンが何で、誰に向けて作っているかというファッションビジネスにおいて特に大切なことを忘れることがなかった。「自分が着たいモノを作る」と言うデザイナーは多いが、世界的な成功を収めた後もそのローカル的な精神を失わずにいられる人は少ない…しかし、ジェームズ氏はそうだった。

自分たちの価値観を失わずに世界の頂点へ

ブランドが本格的に人気を集めたきっかけは特定のアイテムではなく、真摯で実直なファッション活動の積み重ねと言っていいだろう。今でこそ毎シーズン様々なブランドと話題性の高いコラボレーションアイテムを展開しているものの、初めてメジャーブランドとタッグを組んだコラボアイテムは1996年に発表された〈VANS〉のOLD SKOOL(オールドスクール)で、それが人気の火付け役になったわけではなかった。それ以前に映画「タクシードライバー」をフィーチャーしたTシャツを発売したり、ニューヨークにゆかりのあるアーティストやミュージシャンを(勝手に)取り上げた非公式のアイテムを数多く制作している。
現在に続く世界的な成功とファッション業界における地位の確立という点では、2012年の〈COMME des GARÇONS(コム・デ・ギャルソン)〉とのコラボレーションがもっとも大きな契機になったとジェームズ氏は振り返っている。「あのコラボレーションのおかげで色々な扉が開いて、色々な人たちから注目されるようになりました」と過去のインタビューで語る通り、〈コム・デ・ギャルソン〉とのタッグはストリートのキッズたちをモードの世界に招待し、モードの住人たちをストリートへと呼び込む直接的なきっかけになったと言えるだろう。そして2017年の衝撃的な〈LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)〉とのコラボレーションは、伝統的なビッグメゾンの格式高いファッションを〈シュプリーム〉色に染め上げるパンク精神あふれる偉業だった。
それより以前から行われてきた他ブランドとのコラボレーション…〈A BATHING APE(ア・ベイシング・エイプ)〉、〈Nike(ナイキ)〉DUNK SB、〈UNDERCOVER(アンダーカバー)〉、そして〈THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)〉との素晴らしいタッグを経て、ニューヨークのストリートで生まれたスケーターブランドが世界のビッグメゾンやデザイナーブランドと対等な立場でモノ作りをしたという事実は、ファッション業界においてもっともエキサイティングな出来事のひとつではないだろうか。

すべてのファンのために可能な限り最高のモノを

ジェームズ・ジェビア氏は成功の方程式がないことこそが方程式なのだと言う。自分や家族、そして〈シュプリーム〉のファンたちがストリートブランドとハイブランドをミックスして着こなす自然体こそが、変にカッコつけないリアルなスタイルである、というのはとても共感できる。特定の枠に収まることを嫌うことは〈シュプリーム〉の活動を見ていればよく伝わってくる。そして、世界的なブランドへと成長した今も市場からの過剰な要望に捉われないように気を付けているという。「これからも〈シュプリーム〉のことを手の届かない高価なブランドだと思って欲しくはありません。〈シュプリーム〉は量産品しか作れないわけだし、僕たちの帽子を作っている工場だって、帽子を量産することしかできないわけですからね」という言葉から、ジェームズ氏の地に足の着いた考えが伝わってくる。ビジネスである以上売れてほしいとは思っているものの、自分たちのペースは大切にする。こう書くとストリートブランドとは思えないほど優等生的で堅実なスタンスに感じてしまうけれど、先に述べたように真摯で実直な一面があったからこそ、移ろいやすいファッション業界においてこれほどビッグになれたのかもしれない。
また、ジェームズ氏は「最高、至高」の名前の通り、〈シュプリーム〉のアイテムを一般的なファッションブランドよりも品質が高く、適正な価格で作り、長く愛用してもらえるように作っている。着たことがある人ならご存じの通り、実際〈シュプリーム〉は今も昔も品質が高い。厚手のフーディーひとつ取ってみても明らかに何年も愛用できるクオリティを備えていることが分かるはずだ。これもまたこのブランドが考える真面目なモノ作りであり、ストリートのリアルであり、ファンを裏切りたくないという思いにほかならない。
私たちがやっていることの多くは90年代から来ていると思います。なぜなら、それが私たちがブランドをスタートした時だからです。しかし、それは服、音楽、アート、そして多くのことにとって黄金時代だったと私は感じています」というジェームズ氏の言葉にも注目したい。ファッションを取り巻くあらゆる要素が刺激に満ち、輝いていた時代のエッセンスを存分に取り込んだ〈シュプリーム〉は、懐古主義的な一面と新鮮さが絶妙にミックスされている。新しいのに懐かしさも感じる不思議なモノ作り。それは90年代に〈ア・ベイシング・エイプ〉や〈NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)〉がストリートファッションのクオリティを一段階上のレベルに押し上げ、それが世界に通用することを証明したことと通じている。
浮き沈みが激しい業界においてどんな計算をしたか?という問いには、ジェームズ氏はこう答えている。
私たちは何もできませんが、可能な限り最高のものであると私たちが考えるものを出そうとします。その後、お客様が気に入ったかどうかを判断します。何が起こっているのかをよく認識し、今日の世代のために可能な限り最高のものを作ろうとすることです。私は水晶玉を持っていません。私たちは私たちが誰であるかを忘れません」。
そして、長いキャリアにおいてもっとも誇りに思っていることは何か?という問いにはこう答えている。
私たちがまだ進んでいることをもっとも誇りに思います。 長い間、たくさんの人と一緒に仕事をしてきました。 初日から一緒に仕事をした人がいます。 それを私は誇りに思っていますよ。 私は自分自身、そして私と一緒に働く多くの人々をサポートすることができました。そして私の子供たち。それは多くのことを意味します
ストリート生まれのブランドとしてこれ以上ないほどの成功を収めているにもかかわらず、慢心せず謙虚さを失わらないジェームズ・ジェビア氏は、掛け値なしでストリートの伝説だ。〈シュプリーム〉は過去に作られたモノでも欲しいと心底思えるし、これから誕生するモノへの期待感も決してなくならない。「昔はかっこよかったよね」にはならないのは凄いことだ。常に私たちをワクワクさせる〈シュプリーム〉の伝説は、これからもまだまだ続いていく。
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