
【インタビュー】吉祥寺でアートやカルチャーと連動したファッションを届ける UNRESS のモノ作りへの思い
街や社会と連動しながらアートやカルチャーを感じるメンズ&ウィメンズファッションを届ける〈UNRESS〉デザイナーへの独占インタビューをお届け
吉祥寺に生まれ、コロナ禍を経て改めて感じた街とのつながり
東京という街には何でもあるけれど、没個性を感じる瞬間も多い。すべてではないにしろ、セレクトショップや商業系ビルは同じような商品構成、レイアウト、内装が多いと感じるのは筆者だけではないはず。何事も洗練を極めつつあると画一化されがちなのかもしれない。でも、きっと自分が知らないだけでもっとワクワクするお店もあるはずだ。そんな期待を胸に、インスタグラムでつながっている友人である@sacamogramさんに「ステレオタイプではない面白いお店を知りませんか?」と訊いてみた。すぐにいくつかの候補をピックアップしてくださった中で、「このお店は凄く面白いですよ!」という太鼓判とともにおすすめされたのが「UNRESS 吉祥寺」。さっそくインスタグラムと公式サイトを見てみると、確かに展開されている商品もコンセプトもとてもユニーク。本稿では〈UNRESS(アンレス)〉というファッションブランドと、その直営店舗である「UNRESS 吉祥寺」をフィーチャー。吉祥寺という東京屈指の面白い街で活動するデザイナー兼オーナーのインタビューをお届けする。
まずはバックグラウンドについて教えてください。「UNRESS 吉祥寺」を開店する前はどんなことをされていましたか?
「UNRESS 吉祥寺」は2024年1月に開店したのですが、〈UNRESS〉というブランド自体は2012年から活動しています。店舗を始める前はポップアップやオンラインストアを中心に運営していました。最初から形になっていたわけではなく、ブランド設立から3年間はアルバイトをしながら運営していました(笑)。活動を続けていく中で少しずつ形になっていって、ようやく最近店舗をオープンできたという状況です。〈UNRESS〉を始める前は、約5年間デザイナーズブランドや109系のメーカーに勤めていました。色々なジャンルのデザインに携わってから〈UNRESS〉をスタートしています。
「UNRESS」という言葉は造語かと思いますが、どんな意味を込めたのでしょうか?
「Unless you know unrest, you can’t reach the essence(不安や違和感の先に物事の本質が待っている)」。ちょっと硬いんですが、自分のモノ作りのテーマみたいな意味を込めています。
ご自身のお店を吉祥寺にオープンした理由やいきさつなどを教えてください。
僕は吉祥寺の生まれで今もこの街で暮らしています。コロナ禍の時に吉祥寺の地図をグラフィカルに表現した「We Love Kichijoji Bandana」というアイテムを作りました。ウチも売上が半減して存続できるか危うかったんですが、お店を構えている人たちはもっとキツいと思ったので、チャリティーで売上は掲載店舗に還元しました。これが思った以上に反響をいただいて、ブランドや店舗を知ってくれる方が増えて街とのつながりもできたんです。バンダナを作ってブランドを辞めることも考えていたのですが、結果的に街に救ってもらいました。自分の地元をフィーチャーしたモノ作りは初めてだったので、この反響は新しい感覚で。街のアイテムがあるなら店をもった方が説得力があるだろうってことで、店舗を持つ流れに繋がっていきました。あとはブランドを続けていく中で服を売れる人が最強だなと思うようになったのも大きいですね。現場に立ってライブ感覚でモノ作りをしながら販売することで、自分もブランドも成長できると思ったのも店を持ったきっかけです。


『TOUGH外伝 龍を継ぐ男』の猿渡哲也さんとコラボレート
「UNRESS 吉祥寺」はどんなお店ですか?
〈UNRESS〉の旗艦店としてユニセックスでアイテムを展開しています。店の奥にはアトリエスペースがあって、パターンを引いたりデザインもここで行っています。商品数は多くはないですが、アートやカルチャーを感じられる普段使いしやすいベーシックなアイテムを揃えています。クリエイターやゆかりのあるショップや団体とのコラボレーションも積極的に行っています。
最近は『TOUGH外伝 龍を継ぐ男』の猿渡哲也さんとコラボレートし、オリジナルのTシャツを制作されていました。かなり異色のコラボレーションだと思いますが、実現したきっかけやストーリーを教えてください。
言葉で説明するのは難しいのですが、狙ってできたわけではなく、自然発生的に実現しました。偶然知り合って色々お話しさせていただく中で、ウチの服を漫画の中に描いてくださって、そのシーンをTシャツにさせてもらって…という流れです。漫画の中のモノが現実になって、現実にあるものが漫画になって。これほど純度の高いコラボレーションは珍しいですよね。昔から知っている『TOUGH』というのもいまだに信じられないくらい光栄です。最近ではまさかの僕をモデルにしたキャラクターも登場して、漫画の中でバリバリ戦っているんですよ(笑)。また新たな作品作りに活かせるようアイデアを練っています!


着る人によって印象がガラリと変わるようなデザイン
ファッションの店舗を運営するにあたって、どんな喜びや苦労がありますか?
これまで関わりのなかったたくさんの人たちと出会うことができました。素敵な作品を作るクリエイターの方々だったり、ジャンルは違えどお互いの感性に惹かれるような人たちとのつながりが強くなったことを感じます。そこからモノ作りに発展することも多く、アイテムの質や純度が高まっていると思います。ネットやSNS全盛の時代だけど、場所を持ったことはウチにとって良い方向に進んだのかなと。苦労は、日々店を開けているので思うように売れない日もあることでしょうか。そういう時は心が折れそうになりますが(笑)、コツコツやるのは好きなので性に合ってるんだと思います。
シルクスクリーンプリントのTシャツや刺繍でデザインしたスウェットなど、さまざまなオリジナルアイテムを展開されています。デザインや制作などでこだわっていることなどを教えてください。
ファッションは雑食的に好きなので、ユーザーとして市場を一通り見たうえでウチのような小さいブランドがやる意味があるのか?ということは常に考えています。シンプルだけど主張のあるバランスを意識して、着心地と使いやすさは何度かテストをして製作していて。グラフィックや刺繍に関しては生と死を感じるようなハードなテーマをポップに表現したり、矛盾と曖昧さを残すことで着る人によって印象がガラリと変わるようなデザインを心がけています。




〈COMME des GARÇONS〉や〈RAF SIMONS〉、〈UNDERCOVER〉との衝撃的な出合い
ご自身は普段どんな服装をされていますか?好きなブランドやデザイナー、アーティストを教えてください。
普段は好きなグラフィックTシャツとシルエットの綺麗なシンプルなパンツにスニーカーが定番なスタイルです。屈折した価値観かもしれないけど、どんな成功者よりもイケてるTシャツを着ている人を尊敬しています(笑)。流行り物ではなく、その人の人間性やバックグラウンドを醸し出すようなTシャツを着ている人には思わず声をかけてしまうくらいで。最近はいろんなクリエイターの方々とグラフィックを製作しながら良いTシャツを作れているので、とても充実した日々を送れていますよ。
小学生の頃から服は好きだったのですが、1番傾倒していたのは90年後半~00年前半の裏原後期あたりでした。そこから本格的にファッションにのめり込んで、〈COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)〉をはじめとしたモード系や〈RAF SIMONS(ラフ シモンズ)〉のようなアントワープ系のブランドに入っていきました。それと、18~19歳くらいの時に「アンダーカバー 青山」に行った時は、あまりの衝撃で店舗の前で泣いたことを覚えています。アートに関しては22歳の時に大竹伸朗さんの作品を見た時に、これまた衝撃が走りました。共通するのは毒があって攻撃的だけど美しいバランスを保っている感じでしょうか。この辺のカルチャーが自分のベースを作っていると思います。とはいえ、ファッションはいろいろなテイストが好きなので、109系のレディスブランドなども含めオールマイティーにチェックしています。





異業種とのコラボや吉祥寺への貢献などを通じて、説得力とムーブメントが生まれる活動を
前述の漫画とのコラボレーションや、アート性のあるオリジナルアイテム展開、さらに「きよせ幼稚園」にてクラスTシャツを制作するなど、一般的なファッション系ストアとは異なる活動も「UNRESS 吉祥寺」の魅力だと思います。意外性があったり、ワクワクするお店が少なくなっている中、今後はどんなお店作りをしていきたいですか?
裏原のコラボ文化に憧れた世代ですが、当時のようなブランド×ブランドの同業者のコラボレーションはたくさん見てきたので、ウチが同じことをやってもあまり意味がありません。ウチはウチのストーリーを紡いでいきたいので、お互いの感性に惹かれる異業種の方々とのコラボレーションに目を向けています。業種が違うので価値観が違う部分も多く、バランスを取っていくのが難しいですが、うまく形になると新しいものが生まれるし無限に広がっていきそうで。
また、この街生まれで店をやっているという強みを活かして、街作りにも積極的に関わっています。今は地域と連携して駐輪が問題になっている公園の場所にプランターを置いて花畑にしようという計画を立てています。〈UNRESS〉としても花に関するアイテムを作ったりイベントを開催し連動していくことで、説得力とムーブメントが生まれます。単にかっこいい物を作るだけでなく、複合的な意味を持ったモノ作りはウチの特色でもあるので、これからも強化していきたいと思っています。「きよせ幼稚園」に関しては吉祥寺バンダナがきっかけでお話をいただくようになりました。年長クラスのデザインの授業も担当させてもらっているのですが、子どもたちの作る作品やデザインのプロセスは思った以上に刺激になります。〈UNRESS〉を始めた頃は子どもに何かを教えるなんて考えもしなかったけど、親になったのが大きなきっかけで自分のモノ作りだけでなく、経験や考えを下の世代に伝えていくことも大事だと思うようになりました。
最後に、お店のファンの方に向けて一言お願いします。
ファッションにとどまらずアートやカルチャーを感じられる作品を街や社会と連動しながら作っていきます。これからもよろしくお願いします。
〈UNRESS〉はベーシックな中に独自の遊び心を忍ばせたTシャツやスウェット、ドレスショーツ、バンダナといった普遍的なアイテムを展開中。気になる方は公式サイトをチェックしてみよう。また、最新情報がポストされる公式インスタグラムのフォローもお忘れなく。
なお、本稿で使われている写真はすべて筆者に〈UNRESS〉を紹介いただいた @sacamogram さんが撮影を担当。併せてチェックしてみよう。
なお、本稿で使われている写真はすべて筆者に〈UNRESS〉を紹介いただいた @sacamogram さんが撮影を担当。併せてチェックしてみよう。