2023 PAGANI UTOPIA

PAGANI の新型モデル、UTOPIA が提示した圧倒的なハイパーカーの未来

価格は非公表ながら、世界限定99台がすでに完売。イタリアのハイパーカーメーカーの新型モデルは時代の流れに抗う超アナログ仕様だった。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : NET CAR SHOW

時代への逆行

イタリアのハイパーカーメーカー〈Pagani Automobili(パガーニ・アウトモビリ)〉が創業30周年を迎えた。ベースモデルで1億円を超え、限定モデルの場合4億円以上もの価格が掲げられるハイパーカーメーカーの中ではもはや老舗メーカーの域に達している。イタリアに限らず、ヨーロッパやアメリカでは昔からスーパーカーやスポーツカー、マッスルカーなど、極端に生産数が少ないカーメーカーは数え切れないほど立ち上がっては消えていったことを考えると、〈パガーニ〉は世界トップレベルに成功したハイパーカーメーカーと言っていいだろう。アルゼンチン出身の創業者兼デザイナーであるHoracio Pagani(オラチオ・パガーニ)は、カーデザイナーとしてだけではなく、経営者としても超一流の天才だ。
ところで、説明の必要がないほど現代は世の中全体がエコとサステナブルへと舵取りを修正している。ヨーロッパの先進国では近い未来にガソリン車の生産をストップする方向で固まっているし、今後ますます電気自動車が存在感を増していくことは間違いない。それに伴い、クルマ好きが愛してやまないガソリン車…特にパワフルでスポーティーなスポーツカーやスーパーカー、マッスルカーなどは絶滅危惧種へと早々と変化しつつある。先日〈フェラーリ〉が発表したSUVが自然吸気型V12エンジンを搭載することをお届けしたが、ああいったクルマが堂々と登場する場面は今後数年でますます減っていくのではないだろうか。当然その影響はメーカーの規模を問わず波及する。〈パガーニ〉のような少量生産を得意とするハイパーカーメーカーにとっては、エコやサステナブルは翼をもがれるに等しい。
だから、今月発表されたニューモデル、UTOPIA(ユートピア)は眺めていて複雑な思いを抱かざるを得ない。世の中のすべての流れに逆行するように、〈パガーニ〉ユートピアはアナログ極まりないクルマだからだ。重いバッテリーもハイブリッド電源も持たず、純粋な〈Mercedes(メルセデス)〉製V12エンジンを搭載。国を問わずスポーツタイプのクルマは軒並みパドルシフト全盛の時代において、当たり前のように7速マニュアルトランスミッションもしくはオートマチックトランスミッションのみが用意され、864馬力ものパワーを発揮する。まるで30年前のレーシングカーのように速さを求めるこの姿は、しつこいようだけれど明らかに時代に逆行している。

2023 PAGANI UTOPIA
2023 PAGANI UTOPIA

2023 PAGANI UTOPIA
2023 PAGANI UTOPIA

ファンが求めるすべてを叶えた超美麗なデザイン

でも、昔ながらのクルマが大好きな筆者のようなタイプの人間からすれば、〈パガーニ〉ユートピアは期待を上回る最高のクルマだ。というか、〈パガーニ〉のようなカーメーカーが「新型の見た目は地を這うようなレーシングスタイルですが、中身はEVです」と発表したら物凄くガッカリするに違いない。だってそれは私たちが求める〈パガーニ〉では決してないから。
〈パガーニ〉ユートピアには世界中のファンが心から満足するすべてが完璧に詰まっている。流麗で美しいフォルムと他のどのクルマにも似ていないオリジナリティ。その美麗な姿の下に隠された獰猛なV12エンジンがもたらす爆発的な速さ。そして、ベースモデルを起点に今後はどんな派生モデルが誕生するのだろうと想像せざるを得ない期待感。大企業が当たり前のようにEVやハイブリッド化にシフトし、〈FORMULA 1(フォーミュラ1)〉ですらV6エンジン+モーターの時代において、〈パガーニ〉のようなメーカーは常に期待を裏切らず、クルマ好きの夢をつないできた。その流れが新型モデルでも続いたという事実は純粋に嬉しい。
デザインに目を向けてみよう。これまで製作されてきた歴代モデル…Zonda(ゾンダ)やHuayra(ウアイラ)の流れを汲みながら、より流麗で曲線的なフォルムを与えられたユートピアのデザインはただただ美しいの一言に尽きる。レーシングカー直系の顔立ちに始まり、丸みを帯びたフロントガラスから筋肉質でありつつなだらかなカーブを描くボディトップやサイド、斜め上にキュッと上がるヒップラインに至るまで、古典的でありながら古臭さが一切ない不思議な造形に落ち着いていることが分かるはず。瞬間的なトレンドに流されず、時代を超越したデザインオブジェクトを作成するという同社の目標が歴代モデルと同じか、それ以上達成されている。スーパーカーやレーシングカーがもっとも美しかった時代のエッセンスを残しながら〈パガーニ〉流のアレンジを施し、世界トップクラスの美しさを実現する…言葉で書くよりもはるかに実現が難しいことを、稀代のハイパーカーメーカーは今回も実現してくれたのだ。

2023 PAGANI UTOPIA
2023 PAGANI UTOPIA

2023 PAGANI UTOPIA
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クルマのインテリアとは思えないほどラグジュアリーな空間

それではインテリアはどうだろう?〈パガーニ〉というカーメーカーのことを知る人であれば、ユートピアの車内空間を眺めてもそれほど驚きはないだろう。しかし、初めて〈パガーニ〉のインテリアを見る人は少なからず衝撃を受けるはず。上質なレザーとメタル、カーボンファイバーを駆使して構成される車内空間は、クルマのインテリアとは思えないほど美しい。高級車メーカーが口々に「ラグジュアリー」という言葉を使いたがるけれど、〈パガーニ〉ユートピアのインテリアを一瞬でも見れば黙り込んでしまうのでは?それほどこのクルマの内部空間は完璧に作りこまれている。
ドライバーの前には大きなメーターが2つと、最小限のディスプレイのみ。すべての計器はアナログ形式で、これもゾンダやウアイラと共通している。滑らかでしっとりとしたレザーと光沢感のあるメタル素材、部分部分に垣間見えるレーシーなカーボンファイバーを見ているだけでうっとりしてしまう。モダンでもレトロでもない時代を超越したスタイルは、ボディデザインだけでなく車内でも完璧に達成している。
そしてもちろん、車内中央で床から伸びるマニュアルシフト!強度の非常に高いアルミニウムブロックから削り出されたシフトレバーは、1970~80年代のスーパーカーのようにシフトゲージが明確に刻まれた土台から天に向かってそびえ立つかのよう。864馬力を発生する自然吸気V12エンジンをマニュアルトランスミッションで操れるなんて(本当の意味で操れるわけはないけれど)、夢のような話だ。

2023 PAGANI UTOPIA
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最高のクルマを作るという断固たる決意をあらゆる点で感じさせる

他社のスーパーカーが物騒なエアロパーツや美的観点を崩す造形を採用するのに対して、〈パガーニ〉ユートピアは不思議なほどフラットで「素の状態」に見える。実はここにも同社の絶え間ない工夫と努力が隠されているので、簡単に紹介しよう。
〈パガーニ〉が時代を超越したデザインを作り上げることも命題にしていることは先に述べたが、このまったく新しいニューモデルでそれを実現するために6年間もの年月が掛けられている。最初のスケッチとコンピューター計算からカーボンファイバー製の金型の最終的な形状が固まるまで、果てしない時間を掛けて風洞での空力開発をはじめとしたトライ&エラーが繰り返された。攻撃的なエアロパーツで武装せずともレーシングカー顔負けの空気力学を身にまとい、アクティブなエアロダイナミクスと電子制御ショックアブソーバーの組み合わせにより、どんな速度であっても確かなハンドリングと運動性能を実現すること。航空宇宙業界でも使われるアルミニウム合金製のダブルウィッシュボーンサスペンションの採用や、繊維の織り方を改善し、新しい複合素材を絶えず発明することで従来よりも38%もの剛性強化を実現した超堅牢・超軽量のカーボンモノコックの恩恵も計り知れないという。その結果、純粋に速く運動性能の高いだけではなく、安全性という点でも世界基準の厳しい規制をクリアすることに成功。実際〈パガーニ〉ユートピアは開発から事前テスト、ホモロゲーション承認まで50以上の過酷なクラッシュテストに合格し、グローバル認証を取得している。少量生産のハイパーカーメーカーは安全性に関しては法律的に免除される内容が多いのだが、〈パガーニ〉は進んで開発コストを掛け、自らクリアしているのだ。

2023 PAGANI UTOPIA
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人々の夢をつなぐ〈パガーニ〉

このように想像できるすべてにおいて最高峰のクルマ作りが施された〈パガーニ〉ユートピアが、恐らく数億円という価格にもかかわらず99台すべてが即完売することに納得いただけるはず。このクルマを購入できる人々にとっては金額なんて大した問題ではない。アートとエンジニアリングがトップクラスに融合した芸術品のようなクルマを体感し、そばに置いておきたいという気持ちがすべてなのではないだろうか。
創業時はたったの25人しかいなかったという従業員数は現在180人ほどに増えたようだけれど、それでも自動車メーカーとしては異常なほどの少なさだ。しかし、デザイナーやエンジニア、ファクトリーの優秀な技術者などすべてのメンバーが専門家であり、年間たった50台しか製造しないという事実は〈パガーニ〉の価値をより高めているように思えてくる。一般的な生産ラインというよりはオーダーメイドの仕立て屋に近いチームで、世界トップクラスのハイパーカーをハンドメイドで製作し続ける姿勢。アートのように美しく、ライバルがほとんど存在しないほど圧倒的に速いクルマを生み出してきた事実。スーパーカー/スポーツカーを得意とする自動車メーカーにとって、これからは想像以上にタフな時代になっていくだろう。10年後も〈パガーニ〉が今と同じようなクルマを製造しているかは誰も分からない。そもそも自分には一生縁がないクルマしか作っていないことは言うまでもないが、それでもどうか作っていてほしいと願わずにはいられない。クルマに対して夢を感じない世界なんて想像するのも嫌だからだ。
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