「上がり」のライダースになり得るほど究極の逸品 – サンローランのライダース

いよいよライダースのシーズンがやってきた!革キチ諸氏の皆様はそろそろお目当ての逸品を探し始めているのではないだろうか。本日はライダースの世界の中でトップオブトップ、パウンドフォーパウンドに君臨するサンローランのライダースに注目。一発で物欲を激しく刺激されることを覚悟でご覧いただきたい。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : MODERN BLUE
Available now : SAINT LAURENT

王道をベースにモードのエッセンスを注入したデザインの巧みさ

サンローランのライダースはいきなり4番打者を打席に立たせるようなものだ。まさに真打ちのような逸品である。新品定価が約60万円という目を剥く値段でも毎年飛ぶように売れるらしい。一体なぜサンローランのライダースはこれほど人々の熱中を集めるのだろうか?
その答えはデザイン、シルエット、そしてブランド自体のパワーにある。
全体像はもちろん、細部をご覧いただければ分かるように、デザイン自体はとてもクラシカルだ。何十年も前からある昔ながらのライダースのデザインに忠実で、そこにモードブランドらしいエッセンスや思想が織り込まれている。クラシカルであることは人気を集めるうえで絶対条件だと個人的には思っている。
ファッションブランドは当たり前のように毎シーズンライダースを始めとするレザージャケットをリリースしてくるが、やはり王道を外れたデザインであるほどスタンダードにはなりにくい(ここにはメンズファッションの特徴がよく出ている)。それゆえ各ブランドは王道にひと手間を加えた仕事をするわけだが、そのまんまではあまりに芸がないので何かしらのオリジナリティを出そうとする。その出し方が異常なほど上手でハマっているのがサンローランのライダースなのだ。


奇をてらわない普遍的なデザインのダブルライダース。一見普通だが、ジップの角度や襟の大きさなどディテールに注目すると全体のバランスを計算し尽くして作られていることが分かる。

ダブルライダースジャケットの帝王、ルイスレザーズのライトニングなどに近しい雰囲気を感じるものの、やはり全体を見るとモードブランドらしさが色濃く漂う。デザインの妙である。

すべては美しいシルエットのために

美しいシルエットはモードブランドの十八番だ。極限までシェイプしたウエストやアームホールは実用性よりも着用時の美しさを追求した結果。このタイトなシルエットがファッション感度の高い大人を魅了する強い理由のひとつであることは間違いない。老舗ブランドが作る本気のライダースの方が圧倒的に堅牢にできているが、それらの多くは今でも着用時のシルエットが野暮ったいのが現状だったりする。
綺麗なシルエット作りは素材にも関係している。ライダースジャケットはその名の通り、元々はライダーの体を保護する目的で生まれたアウター。寒さ対策はもちろん、転倒時に体を守る目的があるので、その本来の目的に忠実であればあるほどレザーも堅牢性の高いものが選ばれる。例えば牛革の中でも硬く張りのあるステアハイドやホースハイドなど。しかしそれらは重く厚みがあるので、タイトなシェイプのライダースで採用するにはややToo muchな印象になってしまう。そこでモードブランドは頻繁にラムレザーやシープスキンを採用するようになった。重厚なカウハイドやホースハイドよりもラムやシープの方が薄くしなやかで、明らかに着やすいこと、そしてイメージ的にもよりモダンであることも理由として挙げられる。


バックショットも文句なしに美しい。ライダースをカッコ良く着こなすには肩幅がしっかり合っていること、ウエストとアームホールがある程度以上絞られていること、そして着丈の長さに不自然さがないことが重要。サンローランはすべてが高い次元でまとまっている。

肩付近も不自然な余りがなく程よくピッタリとしている。また、ダブルライダースの顔とも言える襟周りのデザインや大きさもパーフェクト。余計なことをせずに王道的なデザインと作りに忠実であるからこそ、ここまでカッコ良くなるのだ。


腕やウエスト付近のジップ使いもモダンかつミニマムでモードブランドらしい。ウエスト部分にはベルトを通すループが設定されているが、ベルト自体は付属しない。それがスッキリとシンプルな印象に繋がっている。

ロゴ入りのジップ。サンローランのライダースは基本的にラムレザーが採用されており、しなやかで滑らかな質感が高級感たっぷり。

サンローランらしさを強く感じるから支持される

3つめに挙げたブランドのパワーとは、サンローラン自体の魅力のこと。モードブランドとして長くトップに君臨してきた威厳があり、世界中の若者の憧れであり続けてきた事実は、ライダースという本来粗野なウェアであっても独特の「らしさ」に満ちている。つまり、ワイルドなアウターをサンローランというフィルターを通して作るとこれほどモダンでクールなモノになることをストレートに表現しているということ。タグにサンローランと書いてあれば何でもカッコいいのではない。ちょっと待てよ、これは異常なほどカッコいいぞ…と思い確認するとサンローランだった。これがブランドのパワーなのではないだろうか。


上のライダースにワッペンを貼りつけたモデル。よりカジュアルな雰囲気を求めるのであればこちらもおすすめだ。

基本的なデザインや素材、作りに関しては上のライダースと同じ。ただ、オリジナルのワッペンがランダムに入るだけで遊び心がグッと増して、少し力の抜けた雰囲気になる。


「YSL」のロゴが誇らしげに鎮座するワッペン。このライダースがサンローラン製であることに気付く人はそう多くないかもしれないが、良い意味で自己満足度は強烈に高い。

ヘタウマな犬のイラストが絶妙な抜け感!これは女性からも好感度が高い…かもしれない。

人生最後に手に入れる「上がり」のライダースとしても最上級!

ジーンズやブーツとの相性の良さは言うまでもない。むしろモードブランドであることを考慮すると、よりタイドアップしたスタイルで着こなすのもおすすめだ。白いシャツにナローなタイ、ボトムスはスラックスで、足元はよく磨かれた黒い短靴。テーラードジャケットの代わりに羽織る感覚でコーディネートすると最高にカッコいい。
サンローランのライダースが大人からも絶大な人気を集めるのは、エレガントさが強いから。このスタイリッシュさは他の追随を許さない。ライダースジャケットとしては強烈に高額ではあるが、「上がり」の一着として物欲リストに控えておくのはアリかもしれない。唯一の欠点は防寒性の低さだろうか。そこは「オシャレは我慢」と自分に言い聞かせるしかない。

ITEM CREDIT
  • SAINT LAURENT:Classic motorcycle jacket