27歳の若さで急逝した Taiga Takahashi が描く、和と西洋の美しい融合
類まれな才能と洋服への情熱を残し突如この世を去った髙橋大雅氏を悔やみつつ、昨年京都に誕生した総合芸術空間「T.T」の静かな美しさに注目する。
The future is in the past
〈Taiga Takahashi(タイガ・タカハシ)〉のデザイナーである髙橋大雅氏が4月9日(土)に致死性不整脈のため27歳の若さで急逝されていたというニュースが、ファッション業界で働く人たちはもちろん、同ブランドのファンや洋服好きに衝撃と悲しさを与えている。遺族の意向により葬儀は近親者のみで行われた。
高橋大雅氏は1995年生まれ。兵庫県神戸市で育った後に2010年に渡英し、ロンドン国際芸術学校を経て、2013年に数多くのファッションデザイナーを生み出してきた名門校であるセントラル・セント・マーチンズのBAウィメンズウェア学科に進学。ベルギーのアントワープやイギリス・ロンドンのメゾンで経験を積み、卒業後に自身の名を冠したブランド〈タイガ・タカハシ〉をアメリカ・ニューヨークで立ち上げた。ブランドコンセプトは「The future is in the past.」。「過去に存在した遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する」という思想の裏側には、高橋氏の10代から続く情熱と研究心のたまものだ。
海外のアンティークディーラーや古美術商を通じて100年以上前の服を収集しており、その数はなんと数千着にのぼるという。短期間でブランドを成功させる手腕を持っていたことから、ビジネス的な才能に注目されることもあったはずだが、洋服好きが夢中になったのは高橋氏のヴィンテージ愛を強く感じながら現代的に再解釈するデザイン力と圧倒的なセンスだったのではないだろうか。
海外のアンティークディーラーや古美術商を通じて100年以上前の服を収集しており、その数はなんと数千着にのぼるという。短期間でブランドを成功させる手腕を持っていたことから、ビジネス的な才能に注目されることもあったはずだが、洋服好きが夢中になったのは高橋氏のヴィンテージ愛を強く感じながら現代的に再解釈するデザイン力と圧倒的なセンスだったのではないだろうか。
〈タイガ・タカハシ〉が2021年12月4日、京都祇園にブティックを含む総合芸術空間としてオープンした「T.T」は、日本古来の詫び寂びを感じる文化と西洋のファッションが絶妙に融合した空間として各メディアからも高く注目された。本稿では急逝された高橋大雅氏を悔やみながら、氏が生前作り上げた独創的な空間である「T.T」の美しさに迫りたい。
静謐な店内に寄り添うように展示される〈タイガ・タカハシ〉の服
花見小路の裏通りに位置する「T.T」は、総面積約50平方メートル。2フロア構成で、1階ではコレクションやアート作品を展示販売し、2階には予約制の茶室「祇園茶寮然美」を展開している。建物自体は大正初期に建てられた町屋に古材を持ち込んで作り直すなど総改築したもの。屋根を支える大黒柱を移動させるなど、一切の妥協なく高橋氏の思い描く「総合芸術空間」を作り上げたという。
日本古来の和の文化や詫び寂び、清廉で静謐な佇まいにそっと寄り添うように〈タイガ・タカハシ〉のウェアを展示するという手法は、日本と西洋の両方の文化に親しんできた高橋氏にとってはごく自然でニュートラルな表現方法だったのかもしれない。美しい店内の写真を見ていると、日本のブランドなのか、海外のブランドなのかすら曖昧になっていくような感覚を覚える。
日本古来の和の文化や詫び寂び、清廉で静謐な佇まいにそっと寄り添うように〈タイガ・タカハシ〉のウェアを展示するという手法は、日本と西洋の両方の文化に親しんできた高橋氏にとってはごく自然でニュートラルな表現方法だったのかもしれない。美しい店内の写真を見ていると、日本のブランドなのか、海外のブランドなのかすら曖昧になっていくような感覚を覚える。
自然が生み出す美と先人が作り上げた技術に敬意を払い、一切の妥協なく作られる空間
1階の入り口には、Isamu Noguchi(イサム・ノグチ)日本財団理事長で石彫家の故 和泉正敏氏とともに玄武岩で作った彫刻作品「無限門」を展示。入口左手奥には〈タイガ・タカハシ〉のコレクションがズラリと並ぶブティックが展開されている。同店のオープン時にはベジタブルタンニングを施した後に一枚ずつ手作業で泥染(奄美大島に伝わる伝統的な染色方法)を施した馬革を贅沢に使ったレザーコートなどが展示された。これは1930年代のアメリカで流通していたカーコートをベースにしたデザインで、ここにも国境を越えてクリエイションを行う高橋氏のセンスとヴィンテージ愛があふれている。ここには考古学の観点から目に見えない時間の概念を彫刻によって視覚化した作品「無限円」も配置されており、ファッションとアートを違和感なく共存させる空間作りが徹底されている。
各メディアでも話題になった「服が浮いているように見えるハンガー」やブティックスペース奥にある枯山水をイメージした庭園、茶室をイメージしたフィッティングルームなど、1階部分だけで語りつくせないほど和と西洋を融合した空間が広がっており、訪れた人を静かな感動で包み込んでいく。
各メディアでも話題になった「服が浮いているように見えるハンガー」やブティックスペース奥にある枯山水をイメージした庭園、茶室をイメージしたフィッティングルームなど、1階部分だけで語りつくせないほど和と西洋を融合した空間が広がっており、訪れた人を静かな感動で包み込んでいく。
高橋氏の遺志を引き継ぎ、ブランドも「T.T」も継続
先に記載したように〈タイガ・タカハシ〉は過去に存在した様々な遺物を通して、現在と未来に存在する服を生み出すブランド。洋服に目を向けると、アメリカンヘリテージとヨーロッパのクラシックなモードがミックスされたデザインが静かに主張している。メンズウェアの伝統に則ったクラシックなデザインと手法を大切にしていることはご覧の通り。プラス、それらが誕生した時代から100年以上もの年月を経た現代でもオシャレに着こなせるモダンな空気感も加えられており、年齢はもちろん、流行を超えて着続けられるウェアであることが特徴だ。
「ほとんどすべてをオリジナルで制作した」と生前語っていた「T.T」に込められた愛着と未来への期待、展望を思うと、志半ばにしてこの世を去ってしまったことの悲しさを強く感じる。27歳はあまりにも若い。
〈タイガ・タカハシ〉は、今後ブランドの成長を専門的にサポートするブランドデベロップメント事業を手掛ける「Seiya Nakamura 2.24」の協力を得て、髙橋氏の意志を引き継ぐ形でブランドを継続していく予定とのこと。総合芸術空間作品「T.T」と「立礼茶室・然美」も引き続き事業を展開していくという。京都に立ち寄ることがあれば、高橋氏の類まれなセンスと美学が光る「T.T」に訪れてみてはいかがだろうか。
〈タイガ・タカハシ〉は、今後ブランドの成長を専門的にサポートするブランドデベロップメント事業を手掛ける「Seiya Nakamura 2.24」の協力を得て、髙橋氏の意志を引き継ぐ形でブランドを継続していく予定とのこと。総合芸術空間作品「T.T」と「立礼茶室・然美」も引き続き事業を展開していくという。京都に立ち寄ることがあれば、高橋氏の類まれなセンスと美学が光る「T.T」に訪れてみてはいかがだろうか。
STORE INFORMATION
- Taiga Takahashi:「T.T」