FERRARI F355

【プレイバック】90年代の大傑作モデル FERRARI F355 の魅力を振り返る

1990年代に生まれた〈FERRARI〉の中でも特に高い評価を得ているF355は、今こそ乗りたいV8モデル


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : W Supercars

90年代の〈FERRARI〉を代表する名モデル、F355とは?

先日東京・表参道を散策している際、〈HERMÈS(エルメス)〉の近くで信号待ちをしている真っ赤な〈FERRARI(フェラーリ)〉F355 Berlinetta(F355 ベルリネッタ)を見かけた。野太いアイドリングを響かせながら地を這うような姿勢で大人しく停車しているF355の姿は、そこだけが1990年代に時を巻き戻したような不思議な雰囲気を放っていた。間もなく信号が青になり、ゆるゆると発進したF355は、低音から徐々にレーシングカーを思わせる高音を高らかに響かせながら、道端で目を追う自分に強い余韻を残して去っていった。
〈フェラーリ〉F355は1994~1999年まで製造されていたV8 ミッドシップエンジン搭載のスポーツカー。イタリアのカロッツェリア Pininfarina(ピニンファリーナ)が手掛けた美しいスタイリングに、5バルブ化された当時新開発の90度 3,495cc V型8気筒DOHC「F129B」エンジンを搭載し、最大出力380PS/8,200rpm、最大トルク36.7kgf·m/5,800rpmを発生した。また、ギアボックスは同社初の6速MTが用意されたモデルでもある。高回転化されたエンジン特性に合わせて、鍛造アルミ製ピストンやチタン製コンロッドといった高コストの素材を採用することで信頼性を高めると同時に、〈フェラーリ〉らしい高音の音色が先代モデルの348よりも磨きがかかった点も大きな特徴となる。
誕生から30年を迎えた今、当然のことながら現行モデルはF355とは比較にならないほど進化を遂げている。大パワー、超スムーズなギアボックス、空気力学を徹底的に反映した科学的なスタイリング…それらが非常に高い次元で結びつき、市販車でありながらレーシングカー顔負けのパフォーマンスを発揮する。
しかし、表参道で偶然見かけたF355は、モダンな〈フェラーリ〉と比べると圧倒的に劣るはずなのに、強烈なほど魅力的に見えた。これは単なるノスタルジー?それともないものねだりだろうか?個人的にはそのどちらでもない。この前時代のスーパーカーは、時代を超えた強烈な魅力を今でも持っているのだ。

FERRARI F355
FERRARI F355
FERRARI F355
FERRARI F355

新技術と流麗なデザインでベストセラーモデルになったF355

〈フェラーリ〉F355は、同社の創業者であるEnzo Ferrari(エンツォ・フェラーリ)亡き後に〈FIAT(フィアット)〉から送り込まれた新たな指導者、Luca di Montezemolo(ルカ・ディ・モンテゼーモロ)の経営哲学を注ぎ込んだモデルでもある。最先端の技術と世界最高水準のパフォーマンスを持つクルマこそが〈フェラーリ〉であること。もちろん、経営者として絶対に「売れる」クルマを作らなくてはならない。結果的にF355は90年代の〈フェラーリ〉を支える大ヒットモデルとなり、その後のV8モデルへと続く礎を作ったと言っていいだろう。
具体的には、先に述べた新開発のDOHC5バルブヘッドを与えられたV8エンジンの官能的なサウンド&パフォーマンス、画期的なF1マチックの追加(もっともこの機構は後年ファンから信頼性が低いと敬遠されることになる)、そして走行中のダウンフォースをアンダーボディで得るグラウンド・エフェクト・カーとしての設計、それに伴う流麗でモダンなスタイリングがF355の大きな特徴となる。より高いパフォーマンスと新しい技術でデビューしたF355は、ファンが〈フェラーリ〉に求める要素をいくつも備えていたからこそ、売れに売れまくった。

FERRARI F355
FERRARI F355
FERRARI F355
FERRARI F355

30年前の〈FERRARI〉が今でも強烈に魅力的な理由

そんな〈フェラーリ〉F355を今乗るとしたら、どんな喜びがあり、またはどんなデメリットがあるだろうか?
2024年5月19日(日)現在、〈フェラーリ〉F355は中古車市場で約1300~1500万円で売られている。30年前の中古車としては高すぎると感じるか、V8フェラーリの名モデルを1500万円以下で購入できることを安いと感じるかは人それぞれだろう。個人的には、いかにも90年代的なシンプルかつ美麗なデザインと、F1を彷彿させる生々しいV8サウンドを楽しめることこそがF355の美点だと思う。作りこみすぎず、どこか荒々しさも感じるネオクラシックカーならではの魅力と言い換えてもいい。ゴテゴテとしたエアロパーツやモダンすぎるデザインは、F355には一切ない。また、「音だけは速い」などと揶揄されることもあるモデルだけれど、それは誤解だ。そもそも、一般道で走行する分には何の文句もないほど速いことは言うまでもない。今はなき角型2灯式のリトラクタブルライトも最高だ。ボディカラーはそれぞれが好きな色を選べばよいが、ミッションはセミオートマではなく6MTを選ぶべし。
年々交換パーツが手に入りにくくなっていると言われるF355を日常使いすることは、場面によってはしんどく感じることもあるだろう。それでも、生粋のクルマ好きで、かつF355に強い憧れと愛を感じる方であれば、きっと乗る度に「買って良かった!」と思えるはず。〈フェラーリ〉F355には、クルマ好きを心から喜ばせるピュアな情熱と官能性が凝縮されている。
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