
ダニエル・アーシャムが2015年に製作したアーカイブ “Jet Fighter Helmets” が放つ圧倒的な世界
過去と未来の境界線を曖昧にする“浸食の美学”で戦闘機パイロットのヘルメットを再解釈したアーカイブ作品、その圧倒的なディテールと世界観に迫る
時の流れを惑わせる魔力
服や雑貨、その他生活全般に関わるあれこれ、私たちはつい生きていくうえで必要なモノばかりを買い求めてしまう。でも、手元になくても生きていけるのに愛しいと思える何かを求めるのも、人間ならではの自然な欲求だ。例えばアート作品はその代表だろう。絵や置物など、それがなくても生活するうえでは特に困ることはない。それでも手に入れたい、自分の空間にあってほしいと思うアートは、間違いなく人生そのものを豊かにしてくれる。
Daniel Arsham(ダニエル・アーシャム)は、今もっとも世界中のアートファンを夢中にさせている現代アーティストのひとり。過去と未来の境界線を曖昧にする“浸食の美学”を彫刻や絵画、時には原寸大の〈Porsche(ポルシェ)〉911に至るまで、緻密に、かつダイナミックに表現する作品は、いずれも数千年の年月を経て発掘されたかのようなリアルな造形で私たちの感性を刺激する。
本稿で紹介する“Jet Fighter Helmets”は、アーシャムが2015年に発表したアーカイブ作品のひとつ。ジェット戦闘機パイロットが装着するヘルメットをモチーフに“浸食の美学”で再解釈した本作品は、時の流れを惑わせ、見る者の心の奥にある感性を刺激する魔力を放つ。
本稿で紹介する“Jet Fighter Helmets”は、アーシャムが2015年に発表したアーカイブ作品のひとつ。ジェット戦闘機パイロットが装着するヘルメットをモチーフに“浸食の美学”で再解釈した本作品は、時の流れを惑わせ、見る者の心の奥にある感性を刺激する魔力を放つ。









保存と朽ち果ての狭間にある“Jet Fighter Helmets”
“Jet Fighter Helmets”以前、アーシャムは主にポップカルチャーや日常の電子機器をモチーフに作品を製作していたという。本作品はアーシャムが機械という領域に初めて足を踏み入れた記念すべきアートで、テクノロジーが生み出したものに朽ち果てた世界を反映するきっかけとなったという点でも価値が高い。浸食されたジェットファイターヘルメット5体から構成されるこのシリーズは、それぞれ異なる地質学的素材を用いて鋳造。火山灰、砕石された大理石、粉砕されたガラス、砂、ハイドロストーン、そして鋼鉄の破片が明暗のトーンで配列されている。事前知識のない人が見れば、まるで宇宙の果てで異星人が身に着けていたヘルメットが、数千年の時を経て発見されたかのような錯覚を覚えても不思議はない。地中深くに埋没されたまま途方もなく長い年月を経て、ふとしたきっかけで考古学者が発掘した…そんなストーリーを感じる作品だ。アーシャムはこのシリーズを製作するにあたり、テクノロジーの過去の遺物として構想したという。保存と朽ち果ての狭間にある“Jet Fighter Helmets”は、表面には腐食、鉱物の侵入、そして亀裂が刻まれている。特定の箇所では空洞が開き、結晶の成長や内部の崩壊が見られ、侵食と耐久性の両方を示唆している。この壮大なコンセプトを超リアルに再現できる技術力もさることながら、SF的な発想そのものにワクワク感が凝縮されている。きっと多くのアートファンが見た瞬間に目を奪われ、心を躍らせるに違いない。
ダニエル・アーシャムの“Jet Fighter Helmets”は先に述べたようにアーカイブ作品なので現在は手に入れることが難しいが、公式インスタグラムでは数多くの作品を目にすることができる。アートに興味がある方はお見逃しなく。
ITEM CREDIT
- Daniel Arsham:Jet Fighter Helmets