Value to inherit Rolex Pre-Daytona

受け継がれる価値のある腕時計 – ロレックス・プレ・デイトナ

熱狂的なロレックスマニアにとっての宝石のような存在であるプレ・デイトナ。クロノグラフの最高峰、デイトナが正式に誕生するひとつ前の時代に生み出されたプレ・デイトナのすべての個体は受け継がれるべき歴史的価値がある。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : HODINKEE

超人気モデル、デイトナ誕生前に生産されていたレアモデル、プレ・デイトナ

「デイトナ・マラソン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ロレックスが現在唯一製作するクロノグラフ、デイトナを直営店で買うために毎日のように店に訪れる行為を指す。デイトナは需要と共有のバランスが完全に狂っている腕時計で、日本各地にある直営店にすらほとんど入荷しない。そのため並行輸入店では定価以上(新品であれば定価+100万円前後)で売買されるほどの人気で、直営店でデイトナを購入できるのはごく限られたユーザーのみという状態になっているのだ。
一説によると限られた上客にだけ販売されるとか、店側が売っても良い人間を厳選しているという都市伝説のような話さえある。ストックとして入荷していても「デイトナありますか」「ございます」とすぐに売ってくれるわけではないという話もまことしやかに囁かれているくらいだ。この話の真偽はともかく、右から左に流すだけで打ち出の小槌のように大金が手に入るモデルなので、転売するようなユーザーには売りたくないのはロレックス側の本音であることは間違いない。
とにかく、腕時計好きであればご存知のように、ヴィンテージのデイトナは現行モデルよりも更に熱狂的な人気がある。比較的流通量が多い(それでも数自体は少ないのだが)70年代中盤のステンレススチール製であっても1,000万円超えは当たり前。エキゾチックダイヤルのポール・ニューマンモデルなどは5,000万円を超えるプライスが掲げられていることもある。ここ数年のロレックス・バブルは異常なほどで、どんなに頑張っても庶民には手が届かない存在になってしまった。
そんな異常なデイトナ・ワールドの中でひと際レアでマニアックな存在が、プレ・デイトナだ。プレ・デイトナという名前は正式名称ではなく、デイトナというモデル名でリリースされる前に販売されていたクロノグラフのこと。ロレックスは古くからいくつものクロノグラフを作ってきたが、1954年から1961年の間に生産されていたプレ・デイトナは流通量の少なさと控えめで美しいデザインで、ハードコアなロレックスファンとウォッチマニアを熱狂させる伝説的な腕時計である。


この美しすぎるルックス!3カウンタークロノグラフのお手本のようなデザインだ。ケース径36mmと小振りなサイズ感が上品さに拍車をかける。

36mmのケース径は私たち日本人にもスマートに着用できるゴールデンサイズ。女性が身に着けても最高にクール。

名機Cal.72Bを搭載する気品に満ちたクロノグラフ

Ref.6234はデイトナの前身であるRef.6238のひとつ前のモデル。タキメーターはベゼルではなく文字盤に入れられ、スポーツウォッチといえども非常に上品な雰囲気を漂わせている。このドレスウォッチに近しいノーブルなルックスがプレ・デイトナの持ち味で、カジュアルよりもスーツやジャケットスタイルへの相性が良さそうだ。または、英国調のニットやセーター(例えばドレイクスのウールニットとか)を合わせると大人の落ち着いたコーディネートの最高の相棒になるだろう。
ムーブメントはCal.72B。名門バルジュー社のキャリバー72をベースにロレックスが独自の仕様変更を加えたムーヴメントで、古き良きバルジューの名機を搭載したヴィンテージ・ロレックスを求める時計マニア垂涎の逸品。ムーブメントの精度だけを考えると当然最新モデルに軍配が上がるが、熟練した時計職人たちが手作業メインで組み立てたノスタルジックな古いムーブメントには、単純なスペックや精度だけでは評価できない魅力がある。


最新モデルしか知らない人が見たら、ロレックス製であることにすら気付いてもらえないかもしれない。しかし、そんなさり気ないデザインであることもプレ・デイトナの魅力。

リベットブレスレットは伸びがほぼない。何十年も前のモデルであることを考えると驚異的なコンディションだ。

高級車一台分に匹敵するプライス
それでも納得できる価値があるのがプレ・デイトナ

写真の個体は文字盤が淡いエッグブルーにエイジングしており、それも価値を高めている。42,000ドルとお手頃?価格だったようだが、もし今同じコンディションの同じモデルを買おうとしたら、恐らくそんな価格では手に入らないだろう。ちなみに針などに塗布された蛍光塗料はラジウム。人体に悪影響があるためラジウムは後年規制が入り撤廃されることになるのだけれど、その前の年代の腕時計は黄色く灼けた味わいもあって、実はマニアが喜ぶ要素だったりする。あぁ、人のマニアックな物欲の業の深さよ。
プレ・デイトナも防水性の高いオイスターケースだが、クロノグラフのプッシュボタンがねじ込み式ではなく、リューズガードがないため、生活防水があるかもしれない…程度に考えておいた方が良い。つまり雨の日は着用厳禁で、皿洗いのような簡単な水仕事であっても絶対に外した方が良いということ。扱いに気を遣うという点では現代の腕時計とは比較にならないレベルで神経質にならざるを得ない。ただ、ヴィンテージウォッチというのはそもそもそういうものだし、特に希少なヴィンテージ・ロレックスであれば当然のことだ。
存在自体に非常に価値があるプレ・デイトナは、探しても滅多に見つかるものではないし、本気で購入する場合は高級車に支払うレベルの出費を覚悟しなければならない。たかが腕時計にそんな金額を支払うなんて理解できない?価値観は人それぞれだけど、この腕時計の歴史的側面と価値を考えると、誰でも頑張れば手に入る値段であって良いわけがないのは確かだ。今世の中に残っている個体しか存在せず、今後復刻される可能性が皆無であるプレ・デイトナには、人から人へ大切に受け継いでいくべき価値がある。

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