A constant quest for high technology

技術への絶え間ない探求心が宿る、ユニバーサル・ジュネーブ・トリコンパックス

クロノグラフ、トリプルデイトカレンダー、ムーンフェイズという複雑機構を自社開発してしまうスイスの腕時計メーカー〈ユニバーサル・ジュネーブ〉の代表モデル、トリコンパックスの魅力に迫る。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : HODINKEE

抜群の存在感と圧倒的な美しさを持つ4つ目のクロノグラフ、トリコンパックス

メーカーを問わず、腕時計好きの間で常に高い人気のあるクロノグラフ機能を持つスポーツウォッチ。文字盤に備えられるインダイヤルが醸し出すメカメカしさと男性的な雰囲気、時計に詳しくない人が見ても「よく分からないけど凄そう」と直感的に感じるルックスはドレスウォッチやデジタルウォッチにはない唯一無二の魅力だ。実際、クロノグラフ機能を使いこなす人はほとんどおらず、ほぼすべてのオーナーがあくまでもデザインとしてのクロノグラフを楽しんでいると言っていいだろう。
クロノグラフの代表格として挙げられるのが〈ROLEX(ロレックス)〉デイトナや〈OMEGA(オメガ)〉スピードマスター、〈BREITLING(ブライトリング)〉ナビタイマーなど。それらの王道モデルは数十年間人気が衰えないばかりか、2010年代以降はよりプレミアが付くコレクターアイテムに化けたモノも多く存在する。
そんな群雄割拠のクロノグラフ界隈で異色を放つのが〈UNIVERSAL GENEVE(ユニバーサル・ジュネーブ)〉トリコンパックス。通常は多くても3つのインダイヤルが配置されるクロノグラフが多い中、トリコンパックスはご覧の通り4つ目。このメカメカしさを極めたようなデザインと「とてつもない機能性が隠されていそう」と思わざるを得ない凄味のある雰囲気はトリコンパックスならでは。ファーストルックのインパクトが絶大であることと、総合的なデザインバランスの美しさにまずは惚れてしまう。1894年に機械式腕時計のメッカであるスイスで創業した老舗メーカー、〈ユニバーサル・ジュネーブ〉を代表する名作であるトリコンパックスの魅力に迫る。


文字盤上、上下左右にギッシリと配置されるインダイヤル。このアバンギャルドなルックスがトリコンパックスの分かりやすい魅力である。

ケース径は36mmと小振りなので手首への収まりが良い。このコンパクトなサイズ感はヴィンテージウォッチならでは。

超複雑なムーブメントを自社開発する圧倒的技術力

著名な時計メーカーであってもムーブメントは専業的に作る他社の機械を流用する会社が多い中、〈ユニバーサル・ジュネーブ〉は創業当初から複雑機構を得意とし、搭載されるムーブメントは自社開発のものを使ってきた。マニュファクチャラーとしても100年以上の歴史を持つ由緒あるメーカーなので、複雑機構を存分に発揮できるクロノグラフへの熱意は相当に高い。
トリコンパックスは1940年代から1970年代と製造期間が長いロングセラーモデル。こちらは腕時計黄金時代である1960年代に製造されたRef.881101/02で、クロノグラフ、トリプルデイトカレンダー、ムーンフェイズという当時実現できた最高峰の機能性を備えている。2レジスタ−クロノグラフのコンパックスや簡易脈拍計測機能の付いた医療従事者用クロノグラフのメディコ・コンパックスなどいくつものバリエーションを持つコンパックスシリーズの頂点に君臨するのがトリコンパックスで、モデル名は先述の3つの複雑機構があることを表している。
そのため文字盤上に4つものインダイヤルが並ぶわけだが、下手をするとごちゃついてしまいそうなのに整然としたシンプルさがあるところが、〈ユニバーサル・ジュネーブ〉の卓越したデザイン性と技術力の高さを物語っている。黒文字盤と白いインダイヤルはコントラストがハッキリしているため非常に読みやすく、ごく小さな日付ディスクに至るまで視認性が損なわれていない。また、分針と時針から文字盤外周にあるタキメーターベゼルまでクロノグラフの王道を行くデザインであることも、トリコンパックスの総合的なデザイン性の高さを実現していると言えるだろう。


全体的なバランス感が完璧に整っているトリコンパックス。真っ赤なクロノグラフ針がスポーティーなイメージをより高めている。上質なステンレススチールのブレスレットも当時のオリジナル。

クロノグラフ、トリプルデイトカレンダー、ムーンフェイズの3つの機構をコントロールするムーブメント。開発コストが膨大になる自社製ムーブメント製造は1970年代まで続く。

トリコンパックスは紆余曲折があった〈ユニバーサル・ジュネーブ〉の長い歴史において特にエピックな名作

例えば〈ロレックス〉デイトナや〈オメガ〉スピードマスター・プロフェッショナルのような超メジャーモデルと比べると、〈ユニバーサル・ジュネーブ〉トリコンパックスは単純な知名度という点では劣っている。というよりも、〈ユニバーサル・ジュネーブ〉というメーカー自体がどちらかというとマニアックなメーカーだ。機械式腕時計が大好きな人以外にはほぼ知られておらず、そんな「知る人ぞ知る」存在であることもかえってこのメーカーのファンを夢中にさせている一因。
現在は真の時計好きからリスペクトされ、いたずらにプレミアが付くこともない正しい価値が与えられている〈ユニバーサル・ジュネーブ〉だが、1970年代にはクォーツショックの波に飲みこまれ、業績的に打撃を受けた時代もあった。創業当時から受け継いだ企業体系を失うなど様々なダメージを受けたこともあったが、2004年から本格的にブランドを再建し始める。往年のコンパックスシリーズをオマージュしたアエロ・トリ・コンパックスを発売し、レディースモデルも開発するなど精力的に活動し、正統派だが技術力の高いメーカーとして復活を果たす。この記事で紹介している60年代のトリコンパックスは現在にも続く偉大なヘリテージの非常に重要な1ページを飾る希少なモデルであり、今なお熱心な腕時計ファンが日夜探す優れたクロノグラフなのだ。


何度見ても4つ目のクロノグラフが最高にカッコいい。焼けたトリチウム夜光のザラついた質感もヴィンテージのオーラがたっぷり。

直系36mm、厚さ13mmのケース径は着用時の大きさと重さが完璧にバランスする。あのエリック・クラプトンの愛用モデルとしても一部のマニアに知られている。

ひたむきに技術を磨いてきたスイス製時計メーカーの思想が詰まった稀有なモデル

古くから数え切れないほど多くのメーカーがひしめきあうスイスで複雑機構を得意とするマニュファクチャラーとして独特の立ち位置を確保した〈ユニバーサル・ジュネーブ〉。根底にあるのは技術への絶え間ない熱意と探求心だ。もっとコストを抑えて売れ線になり得るモデルを多く出していれば、クォーツショックの時代においてブランドの歴史は大きく変わっていたかもしれない。それでも自分たちが何者なのか、熱心な時計ファンに何を提供できるのかを愚直に求め、提案し続けてきた歴史は尊い。トリコンパックスは単に見た目が美しいだけではなく、〈ユニバーサル・ジュネーブ〉というメーカーの根っことなる部分の思想が詰まった稀有なモデルなのだ。
時代を超えたラギッドな香りが漂う〈チューダー〉の薔薇サブもぜひご覧あれ。

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