Simply classy 1971 Dino 246 GT

最高のルックスと小気味よい走りを堪能できるディーノ246 GT

〈ポルシェ〉911に匹敵する可愛らしい顔立ちにも注目。近年相場が上がり完全に手の届かない世界へ…。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : DESERT MOTORS

エコカーでは味わえない運転体験に満ちたクラシックカーの世界

ほんの数年前と比較しても驚くようなスピードで進化していく自動車業界。特にエコであることと安全性を高めた自動運転技術の進歩は目覚ましく、今後もほぼすべてのメーカーが間違いなく「地球と人に優しい」クルマ作りへと加速していくことだろう。CO2排出量が多い自動車業界においてエコでエシカルであることはこれからの時代において必須条件であり、事故を可能な限り起こさないクルマ作りも安心して生活を送るうえで非常に重要なことだ。
とはいえ、世の中にある自動車がすべてエコカーになってしまったら…わがままを承知で言うととても退屈だとも思う。これはクルマだけではなくバイクにも言えることだけれど、乗り物を操っている時のエンジン音や操作感、フィーリングといった形には表れない部分に感覚的な楽しみ・喜びを感じるのが人間だからだ。昔ながらのガソリンエンジン車が徐々に時代遅れの産物になりつつあっても、アクセルペダルを踏むほど官能的なサウンドが増していったり、マニュアルシフトを操作するフィーリングはエコカーでは決して味わえない体験。そして、その体験をもっとも強く感じられるのがクラシックカーだろう。
クルマ文化が根付きにくい日本でクラシックカーを所有することは正直に言ってハードルが高い。しかし、存在そのものに価値があり、「走る・止まる・曲がる」すべての何気ない行為にドライビングプレジャーをより生々しく感じることができるクラシックカーは、叶うのであれば一生に一度は手に入れてみたいと思うもの。本日は世界でもっとも人気のあるイタリアンスーパーカーメーカー〈FERRARI(フェラーリ)〉が1960年代後半に生み出した名車、DINO 246GT(ディーノ246GT)をフィーチャー。年々高騰を続けるディーノの素晴らしさに迫る。


クラシックカーであることを強く感じさせるフロントマスク。可愛らしい丸目とグラマラスなボディラインはセクシーそのもの。

1960~70年代のカーデザインに多く見られるバツッと切り落としたような直角ラインのテール。今見てもスポーツカーのお手本のようなデザインだと思う。

速さと運転のしやすさを両立した小型フェラーリの始祖

〈フェラーリ〉初のミッドシップ量産車として1967年に登場したディーノ206GTの後継モデルがディーノ246GTだ。「ディーノ」というモデル名は〈フェラーリ〉創業者であるEnzo Ferrari(エンツォ・フェラーリ)のひとり息子であるAlfredo Ferrari(アルフレード・フェラーリ)の愛称から取られている。
アルフレードはイタリア・ボローニャの大学で自動車工学を学び、〈フェラーリ〉社に入社後は自動車業界の将来を予測しいち早く小型車向けのV6エンジンを開発(当時大パワーで巨大なV12エンジンあってこその〈フェラーリ〉と考えられていた)。しかし、若くして筋ジストロフィーに冒され24歳という若さで亡くなってしまう。父エンツォはアルフレードを自身の跡継ぎとして多大な期待を寄せていたため、ひとり息子の死に大いに悲しんだという。
その後アルフレードの遺志は〈フェラーリ〉社のデザイナーやエンジニアたちに引き継がれ、まずはモータースポーツの世界で本領を発揮することとなる。排気量2.5リッターの「ディーノV6」を搭載したF2マシンは1958年のドライバーズチャンピオンを獲得。1961年にも8戦中5勝という圧倒的な成績を残している。
アルフレードが病床でアイデアを出したと言われる65度V型6気筒DOHCエンジンを搭載した206GTは1965年の第52回パリサロンで発表。わずか185馬力しかないコンパクトなスポーツカーだが、レース用エンジンをデチューンしたV6エンジンは9,000rpmまで吹き上がり、ややピーキーながら爽快なクルマだったようだ。その後1969年2月から1974年まで生産された後継モデルがディーノ246GT。高回転型で乗りこなすのが難しかった206GTの特性をマイルドにして、より低コストの量産を可能にした246GT。開発にあたりベンチマークとなったのはドイツが誇る〈PORSCHE(ポルシェ)〉911。排気量を2.4リッターに拡大したうえでトルクを増やし、最高出力を低回転化することで先代の問題点であったややレーシーな性格が大人しくなり、アマチュアでも簡単に運転することができるようになった。
エンジンはヘッド以外を鋳鉄製としコスト削減を図っているほか、アルミニウム製だったボディもより量産が可能な鉄製に変更。フロントガラスの面積が広く視界が良好であることも幸いし、当時のスポーツカーの中でも高い次元のパフォーマンスを発揮しながら安心感をもって運転できるという「いいとこどり」のクルマが誕生したのである。


やや大きめのハンドルと計8つものメーターがズラリと並ぶ運転席周り。このアナログ感あふれる空間もクラシックカーに乗っていることを強く感じさせる。

当然マニュアルミッションのみでATは用意されていない。床からニョキッと生える長いシフトも古いクルマならでは。シフトチェンジの際は優しく丁寧に!

リーマンショック以降徐々に値上がりし、現在は5,000万円を超える個体もザラ
かつてはメチャクチャ頑張れば手に入るモデルだったのに、今やどうあがいても手に入らないクルマに…。

コンパクトなエンジンを小柄なボディに搭載し、運動性能をベース部分から向上させるエンジニアリング思想は後のV8モデルへと続く。ディーノは言わばV8フェラーリの始祖のような存在でもあることは意外と知られていないかもしれない。実際ディーノは〈フェラーリ〉が製造した初のミッドシップ2シータースポーツカーなのだ。
市販車の中で唯一〈フェラーリ〉のバッジが付かないモデルでもあり、先に述べたアルフレード・フェラーリとエンツォ・フェラーリのストーリー性も手伝って、ディーノ246GTは愛好家からの人気が常に高い。10年ほど前は2,000万円前後の相場感だったと記憶しているが、現在はコンディションの良い個体は4,000~5,000万円を超える価格で売られているらしい。いよいよディーノも一般人がどう頑張っても手に入らない領域に到達したか…と遠い目になってしまう。ただ、結局のところ〈フェラーリ〉のクラシックカーが値下がりすることなんてありえないのだ。今後絶対に数が増えることがないクラシックカー/ヴィンテージカーは基本的にすべてのモデルが時間を掛けて値上がりしていく。そこに例外はほぼないと言っていいだろう。


レスポンスの良いV6エンジンは低回転からトルクがあり、ワインディングロードのドライブは最高の一言。〈フェラーリ〉にしては望外なほど視界が良好で、操作自体も妙なクセがなく運転しやすいと言われている。

オーナーには一台一台が文化遺産という認識をもって大切に乗ってほしい。

何十年経っても色あせない魅力を放つディーノ246GT

名機「ディーノV6」を搭載したクラシック・フェラーリであること。スポーツカーとしてのポテンシャルが非常に高いこと。極端にピーキーではなくマニュアル免許を持っていれば運転できること。そしてうっとりしてしまうほど美しいデザインであることもディーノ246GTの大きな魅力だ。クラシックカーらしい丸目のライトとセクシーな流線型を描くボディ、ひとつひとつのパーツの完成度の高さ。現代の〈フェラーリ〉では感じることのできない独特な可愛らしさもあると言ったら所有者から怒られるだろうか?人を威圧するような攻撃的なデザインではなく、クルマとしての性能バランスを前提に置いた当時ならではの美しいカーデザインは何十年経っても色あせないどころか、ますます魅力的に映る。個人的には、この可愛らしい顔立ちはディーノの最大の魅力だと思っている。
エアコンの利きが悪くウィンドウが電動ではなく手動であっても、そんなことは些細なこと。ただエンジンに火を入れて走りだせばそれだけで普段の風景も変わって見えるはずだ。こんなに良いクルマを絶対に手に入れられないなんて!
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