1980 Porsche 911BR BISHIMOTO

スティーブ・マックイーンの愛用モデルをトリビュートしたポルシェ911BR BISIMOTO

マックイーン本人がプライベートで愛用していた〈ポルシェ〉911の特徴的なカラー、スレートグレーで彩った964型911はチューニング業界で世界的に評価される〈BISIMOTO ENGINEERING〉が手掛けた一台。ネオクラシックなルックスと硬派な仕様で仕立てられたワンオフの911BRに迫る。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : TopSpeed

より速く、よりスパルタンに
あらゆるクルマをモンスターに仕立てる〈BISIMOTO ENGINEERING〉

クルマに限らず、例えばファッションにおいても人と被らないことは大きな魅力のひとつとなる。特に高価格のモノであるほどその傾向は強くなるだろう。少量生産でちゃんと人の手を介して丁寧に作られるモノには物質的な品質だけではなく精神的な豊かさが備わっていることが多いからだ。もちろん単純に所有欲が満たされる度合いが高かったりもする。そして、そのモノが憧れている人物…例えば映画や音楽の世界で活躍するスターが愛用していたら、ミーハーと言われるかもしれないけれど思い入れはより一層強くなる。
伝説的な映画スターであるSteve McQueen(スティーブ・マックイーン)が大のクルマ好きであったことはこの記事を読んでいるあなたもご存じかもしれない。今でもファンが多い名作、1971年の映画「栄光のルマン」で、マックイーンはこんな名言を残している。「レースをしているとき、それは人生です」。その言葉通り劇中では多くの危険なカーシーンで実際に運転し、撮影がない時は数々のプロフェッショナルなカーレースに参戦。プライベートでは〈PORSCHE(ポルシェ)〉911を複数台所有していた。
本日紹介する〈ポルシェ〉911BR BISIMOTOは人生を通してクルマとモータースポーツを愛したスティーブ・マックイーンへのトリビュートモデル。アメリカ・カリフォルニア州オンタリオを拠点とする〈BISIMOTO ENGINEERING(ビシモト・エンジニアリング)〉が手掛けたワンオフの911である。
〈BISIMOTO ENGINEERING〉はメーカーを問わず様々なモデルを独自にカスタムするチューナー。その名を世界に知らしめた一例が〈HONDA(ホンダ)〉のチューニングだ。強力なターボを組み込み1,000馬力オーバーのモンスターにしたCIVIC(シビック)ワゴンやODYSSEY(オデッセイ)は見た目からは想像できないほど超過激な性能で、カスタム/チューニングカーの世界でショックを与えた。
そして、〈BISIMOTO ENGINEERING〉がもっとも得意とするのが〈ポルシェ〉のチューニングだ。過去には930型の911(空冷モデル)に996型(水冷)のツインターボエンジンをセットし、エンジン自体もフルカスタム。850馬力を発生する怪物級の911を生み出したほか、1970年代のLE MANS(ル・マン)24時間レースで優勝を果たした935 モビーディックをEV化した935 モビーXを完成させて話題になった。3フェーズエレクトリックモーターに32kWhバッテリーを搭載した935 モビーXは見るからに燃費が悪そうな「悪役顔」をしているが、実際はフルエレクトリックという現代らしいモデル。とはいえ1,000馬力は超えているのではと噂されており、EV化をしてもモンスターマシンを作る矜持は失っていないところが清々しい。すでに完成されているクルマを自分たちなりの個性でカスタム/チューニングする特殊な世界で、目の肥えたうるさ型のクルマ好きからリスペクトされ続けているのが〈BISIMOTO ENGINEERING〉なのだ。


これぞスポーツカー!と喝采を送りたくなるワイド&ローの佇まい。

現代の911とは明らかに違うアナログな雰囲気もたまらない。


もっともマックイーンらしさを感じるのがスレートグレーというカラーリング。角度や光の当たり具合によって色味や濃さを変える渋いカラーだ。

左右に張り出したフェンダーラインが最高にセクシー。フェンダーラインが膨らむとスポーツテイストが強くなるが、やりすぎると下品になってしまうのでバランスが重要。〈BISIMOTO ENGINEERING〉はこういったバランス感覚も超一級であることが分かる。

ピュアスポーツカーそのものの走りとスパルタンな内外装は、まさに男の憧れの世界

911BRは964型を60年代の911風に仕立てたものなのだが、マックイーン本人が所有していた1969年型の911S、そして映画「栄光のル・マン」で運転した1970年型の911Sと同じスレートグレーで塗装されている。黒でもライトグレーでもない程よい濃さを持つスレートグレーは角度や光の当たり具合によって色の濃さが変わり、美しいグラデーションを描く。新旧問わず〈ポルシェ〉911には豊富なカラーバリエーションが用意されているが、黒やグレーは落ち着きと硬派差を兼ね備えた人気カラー。マックイーンファンであれば分かるスレートグレーというチョイスは通好みで、特別感がたっぷりあるこの911にふさわしいカラーだ。
搭載されるエンジンは1990年代の3.6リッター空冷水平対向6気筒エンジン。それにシーケンシャル燃料噴射やCANBUSオンボード診断、そして911 GT3のインテークマニフォールドとワンオフのデュアルエキゾーストシステムを装備し、トータルで316馬力を発生する。〈BISIMOTO ENGINEERING〉にしてはあまりに落ち着いたパワーのように感じるけれど、このクルマがかつてマックイーンが所有していたモデルへのトリビュートであることを考えると、316馬力であることが正解であることが分かる。例え500馬力超の大パワーでもフルに扱えるオーナーはほとんどいないし、コンセプトに合わないからだ。いずれにしてもワイルドなエキゾーストサウンドを聞けば数値的な出力なんてどうでも良くなるはず。
また、ワイド&ローのプロポーションを実現するためにサスペンションもワンオフで製作。クラシックスタイルの911としてはかなり車高を低く設定し、さらにフロントに向けて1.5度の傾斜を付けている。これにより前に向かって前傾姿勢を取る肉食動物のようなオーラを放っていることが画像からも伝わってくるはずだ。
黒を基調にしたスパルタンなインテリアも911BRのエピックな要素となる。アメリカを拠点とするアフターマーケット部品メーカー、Rennline(レンライン)社のトリムピースなども採用しつつ、ラグジュアリーではなくスポーティーに振り切った雰囲気はスポーツカー好きであれば一瞬で好きにならざるを得ない。インテリアでもっともアイコニックなパーツが航空機からインスパイアされたアルミ製のシートだろう。手作業で成形されたむき出しのアルミシートは自動車用の運転席とは思えないほどストイック!正直な感想を言うとお尻が痛くなりそうだし、真夏は鬼のように暑そうで真冬は氷のように冷たそう…と思ってしまったけれど、かっこいいことは間違いない。このシートにマッチするクッションを探すのは一苦労しそうだが、シャープな光を放つアルミ製のシートは間違いなく911BRのオリジナリティを高めている。
3本スポークのステアリングホイールはMOMO製で、これもマックイーン本人が愛用していたパーツ。11,000rpmのタコメーターを含む5連メーターは現代の911が失ってしまった素晴らしいデザインのひとつだ。空調は付くが、当然快適装備と言われる類のものは備えていない(このクルマにそんな装備を求める人はほとんどいないだろうけど)。このクルマはデートカーとしては失格かもしれないが、ひとりで純粋な運転を楽しむという点ではl最高の体験をもたらしてくれるだろう。


車体後部にはオリジナルの「911BR」バッジが。

3.6リッター空冷水平対向6気筒エンジンは昨日工場から出荷されたように美しい。


真っ赤なタコメーターとアルミのシートがインテリアにおけるエピックな要素。硬派でスパルタンな空間はクルマに乗り込むだけで非日常を感じさせてくれそうだ。

決定と言っていいのかは微妙なところだけれど、女性とデートするためのクルマとしてはまったく向かない点はマイナスポイントだろうか。硬いシート、社内にも鳴り響くエンジン音、明らかに装備としては物足りない空調設備など、ハードコアなクルマ好きじゃなければ1時間乗るだけで愛想を尽かされる可能性が高い。

ヴィンテージモデルに限っては「最新の911が最良の911」ではないことを教えてくれるクルマ

あのスティーブ・マックイーンが愛した911へのトリビュートモデルであること、ネオクラシックな964型911をコスト度外視でスパルタンかつクールにフルカスタムしていること、そしてハードコアなクルマ好きの間で非常に評価の高い〈BISIMOTO ENGINEERING〉がワンオフで製作したモデルであることを考えると、生粋の911マニアじゃなくても惹かれてしまうはず。〈ポルシェ〉は常に「最新の911が最良の911」と言っているが、例外もあることをこの911BRが証明している。
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