Watches are not meant to be haughty

腕時計は威張るためのモノではない

スイス製高級時計を身に着けても、オーナー自身の価値が高まるわけではない、という真理について真面目に考えてみよう。


Written : LIVE IN RUGGED
Photo : HODINKEE

スイス製高級時計を取り巻く異常な状況

腕時計に見出すもっとも重要な価値をステータス性と捉えている方にとって、本稿はほとんど完全に時間の無駄になるかもしれない。しかし、ステータス性以外の何かに価値を見出せる人には多少なりとも共感いただけると信じて記事を書いていこう。
ROLEX(ロレックス)〉や〈Patek Philippe(パテック・フィリップ)〉が作る時計が目を疑うようなプレミア価格に急上昇して以降、時計業界は空前のバブル期に突入した。例えば〈ロレックス〉SUBMARINER(サブマリーナ)はかつては新品でいつでも誰でも直営店で30万円代で購入できた。現在では〈ロレックス〉が運営するブティックの店頭にサブマリーナのようなスポーツウォッチが並ぶことはほぼあり得ないと言っていいだろう。入荷後即完売という異様な状況が何年も続き、熱狂的なファン(または転売屋)が「ロレックス・マラソン」と呼ばれる直営店行脚を毎日のように行う光景もすっかりおなじみになっている。
仕事帰りや日中に都内の直営店を何店舗も回るなんて本当かよ?と疑いたくなるけれど、時計好きであればご存じの通り本当だ。なぜなら直営店で定価で購入できれば他のどの店舗で買うよりも安上がりだし、もし転売すればそれだけで数十万円~100万円以上の「お小遣い」をゲットできるから。右から左に流すだけで大金が手に入る可能性があるのだから、毎日のように「マラソン」を繰り返す意味があるというわけだ。
この異常な状況が一過性ではなく何年も続き、今後も収まりそうもないことが、腕時計を取り巻く様々なことを変化させた。世界中のどの国であっても非常に高い換金性があるスイス製高級時計(主に〈ロレックス〉)はファッション業界の中でもっとも「熱い」アイテムになった。本来の価値よりも市場価値が大幅に高まるのに伴い、ステータス性もグングンと上がり、購入できること自体が凄い、身に着けていると多くの人に羨まれる…というある種の不健康な図式ができあがる。もちろん時計に限らず人気の高いモノはいつだってこの図式ができあがるものだ。〈Nike(ナイキ)〉のレアなスニーカーなどはその最たるものだろう。つまり、本来の価値から大きくかけ離れたプレミア化が発生し、手に入れにくくプレミアが付いているということにもっとも価値を見出す人々がこぞって買い漁り、さらに入手困難になる…という悪循環が完成する。

1989 ROLEX SUBMARINER Ref.5513
1989 ROLEX SUBMARINER Ref.5513

〈ロレックス〉サブマリーナは本来、質実剛健なツールウォッチだった

そうなると、純粋にその時計が欲しい人たちが決して手に入れられない状況になる。ステンレススチール製のスポーツウォッチが定価よりも何十万円、もしくは100万円を優に超えるプレミアが付いている。そして、レアでプレミアが付いている高級品だからという理由を最重視して手に入れる人たちが多く存在する…これって本当にバカバカしい事態じゃないだろうか?その妙なレースの中に私たちのような純粋な時計好きはほとんど加わる余地はない。
本稿で取り上げている1989年製の〈ロレックス〉サブマリーナ Ref.5513もかつてはちょっとした貯金の一部を切り崩せば手に入れられる中古の時計だった。ダイバーズウォッチの教科書的存在であるサブマリーナは本来質実剛健と言うべきツールウォッチであり、その本質はラグジュアリー性ではなく道具としての美しさである。もちろんラグジュアリーな時計ではあるけれど、ステンレススチール製の〈ロレックス〉サブマリーナを身に着けて見せびらかそうなどと考える人は、少なくとも20年前にはほとんどいなかったはずだ。だから、ツールとしての完成美よりもラグジュアリー性や希少性が重視される今の状況には強烈な違和感を感じてしまう。これは純粋な時計好きであればきっと共感いただけるはず。

1989 ROLEX SUBMARINER Ref.5513
1989 ROLEX SUBMARINER Ref.5513

腕時計はその人を表すモノ

お金を出せば何でも手に入る今の時代において、高級品をどういう理由や信念で購入し身に着けるかはとても大切な考え方だと思う。お金持ちであることを匂わすために身に着けることはダサい。何年も憧れて、お金がなくて買えず、それでも仕事を頑張ってやっと手に入れた…という苦労話がなければいけないというわけではないけれど、モノが持つ本質的な価値を理解することは重要だ。そして、それをどのように身に着けるかも。
愛用しているモノを誰かに自慢したくなる感情は自然なことだが、腕時計は威張るためのモノではないし、誰かに見せびらかすためのモノでもない。手に入れたその人を表すモノであり、ライフスタイルの一部として、こだわりを具現化したモノとして存在すべきではないだろうか。
LIVE IN RUGGEDがお届けする時計関連の記事はこちらから。
金無垢のRolex Day-Date を若いうちから普段使いするのはどう思う?
LIVE IN RUGGED公式ツイッターのフォローもお忘れなく。

ITEM CREDIT